わけ有り物件の同居人

無月弟(無月蒼)

第1話

 うまい話には裏があるのが常。

 だから大学進学の際に住む部屋を探していた俺は、その物件を見つけた瞬間、これはわけ有りだと悟った。


 物件探しのホームページに載っていたそのアパート。

 都内で駅まで徒歩五分の1DKの部屋が、敷金礼金無しの、月の家賃1万だと?

 絶対絶対絶ー対なにかある!


 そう思って詳しく見てみたら……何だこりゃ?

 玄関や風呂、トイレといった物件の画像の中に、おかしなイラストが交ざっているじゃないか。

 それは頭に毛が3本生えた、真っ白なオバケ。ハッキリ言っちまえばオバケのQ○郎のイラストが載っけてあった。

 そしてさらには、こんな一文が。


『一人暮らしなのに一人な気がしない♪ さみしがり屋に売ってつけのお部屋(*>ω<)👻♡』


 って、事故物件かい!

 いや、事故物件にしたってこの紹介の仕方、絶対にどうかしてるぞ。

 よくここまで堂々とオバケが出るって言い切ったもんだな。


 開き直った不動産屋の紹介の仕方に呆れつつも、俺はちょっと悩んだ。

 オバケねえ。本当にそんなの出るのかなあ?


 正直半信半疑だ。

 そしてもしも本当はいないのだったら……この物件、かなりのお得物件じゃないか?


 というわけで、俺は不動産屋に電話して、まずは内見をすることにした。

 そして内見日当日、案内してくれた不動産屋は、若い女の人だった。


「お、おおおおお、お客様。ほ、ほほほ、本当にこの部屋を内見するのですか? い、今からでも考え直しません?」


 うわ、この人めっちゃガタガタ震えるよ。

 アパートの前まで来たはいいけど、呂律が回ってないし涙目。

 今にも倒れてしまいそうで心配になる。


「あの、この部屋そんなにヤバい幽霊が出るんですか?」

「や、ヤバいかどうかは……一応今まで、誰かが怪我や病気をしたという話は聞きません。それに事故物件というわけでもないんです。けど、確実に出るんです!」

「事故物件じゃない? それじゃあなんで幽霊が出るんですか?」

「大きな声じゃいえませんけどこの部屋……実は霊道になっているんです」


 霊道。たしか幽霊の通り道だったっけ。

 なるほど。この部屋で死んだわけじゃないにしても、通り道になっているから出るというわけか。


「まあいいや。とにかく中を見せてください」

「えー、本当に見るんですかー? それじゃあ玄関を開けますけど……あ、あれ? ひぃー、鍵が鍵穴に入らないー! オバケの仕業ですー!」

「落ち着いてください! アンタの手が震えていて入らないだけです!」


 ビビりまくりの不動産屋を落ち着かせて、何とか玄関のドアを開けてもらう。

 不動産屋よ、他にマシな社員はいなかったのか?


 しかし部屋の中に入った瞬間、俺は目を見開いた。

 いた……たしかにそこに、ヤツはいた。


 それこそ、ホームページに載っていたオバケのQ○郎を彷彿させる白いシーツをかぶったみたいな輪郭で、チョンチョンと豆粒みたいな目が2つの、こんな顔をしたオバケが。

( ・▽・)


 って、なんだこりゃ?

 オバケではあるんだが、全然怖くない。

 むしろちょっとかわいい……。


「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁっ! でぇたぁぁぁぁっ! 怖いぃぃぃぃっ!」


 うわっ、ビックリした!

 俺の横にいた不動産屋が上げた悲鳴に、こっちが驚く。

 つーか待て。怖いって、コイツがか?


 オバケも怖がられるなんて思っていなかったのか、首をかしげてる。

 全身がシーツをかぶったみたいな姿なため、どこが首か分からないけど。


 だが不動産屋のビビりは、俺の想像の遥か上をいっていた。

「だずげで~」と声を漏らしたかと思うと、そのまま白目むいて倒れてしまったのだ。


「おい、不動産屋、大丈夫か?」


 慌てて駆け寄ったが……ダメだ。完全に意識を失ってる。

 オバケも慌てて近づいてきて、心配そうに不動産屋の顔を覗きこんでる。

 ちなみにオバケ、こんな顔だ

(゚□゚;)


「と、とにかくいったん横にさせよう。おいオバケ、お前は足の方持ってくれ」


 俺もオバケもあたふたしながらも、協力して不動産屋を横に寝かせる。

 だけどそこで大変なことに気がついた。

 この人、息が止まってるぞ!


「おいおい、どうするんだよ。このままじゃこの人のせいでここが事故物件になっちまう……って、オバケ。お前なにやってるんだ?」


 見るとオバケ、不動産屋の胸に手を当てて……おお、心臓マッサージしてる!


 いけ、オバケ! 頑張れ! 不動産屋を助けるんだ!

 オバケ、心なしかキリッとした顔をしてるぞ。

( ・`д・´)!


 オバケが数回、不動産屋の胸をぎゅっ、ぎゅっと押さえていると、やがて彼女はぶはっと大きく息をはいた。


「やった、生き返った! よくやったぞオバケー!」


 俺とオバケは喜びながらハイタッチを交わす。

 不動産屋はゲホゲホと咳をした後、寝ぼけたような顔でこっちを見たけど……。


「うぎゃああああっ! バケモノー!」


 オバケを見たとたん、また声を上げやがった。


「バケモノ! バケモノ! 気持ち悪い! 近寄らないで! いやぁぁぁぁっ! 殺さないでぇぇぇぇっ!」


 なんだコイツ。

 むしろオバケは、お前を助けてくれたんじゃねーか。

 命の恩人に対して、なんて失礼な。

 オバケもショックだったみたいで、目を潤ませてるぞ。

( 。゚Д゚。)


「アンタ、そんな言い方はないだろ。オバケはアンタを助けてくれたんだぞ」

「そんなこと言ったって、怖いものは怖いんです! うちの社員全員、このオバケを見たら泣いて悲鳴を上げての阿鼻叫喚。みーんな恐怖でパニックになっちゃうんですよ!」

「社員全員ビビりなのかよ!」

「とにかく、こんな所に一秒たりともいたくありません! アナタもこんな部屋、住みたくないですよね? 次の物件紹介しますから、もう行きましょう!」


 よほどここにいたくないのか、俺を連れ出そうとする不動産屋。

 だけどボロクソ言われたオバケ、グスングスンと泣いてるぞ。

 このまま帰るっていうのはちょっと……。


「……決めた」

「えっ?」

「俺、ここに住みます。契約します」

「はぁぁっ!? 正気ですか!?」


 不動産屋は目を見開いて驚き、オバケもハッとしたみたいにこっちを見る。

( ゚д゚)ハッ!


「別にコイツ、害無いみたいだし。安いならこの部屋借りますよ」

「で、でもオバケと同居ですよ。いいんですか!?」

「ああ、かわいいオバケじゃないか。まあ二人で暮らすにはちょっと手狭になるけど、いいや。よろしくなオバケ」


 ポンポンと頭を撫でてやると、オバケは目をうるうるさせながら、ぎゅ~って抱きついてくる。

(*>ω<)♡


 こうして、俺のわけ有り物件への入居が決まった。



 そしてオバケ。これが実にいいヤツで、引っ越し当日には荷物を運ぶのをせっせと手伝ってくれた。

 夜には引っ越し祝いに近所のスーパーで、ちょっと豪華な夕飯を買ってきてオバケといっしょにジュースで乾杯した。

(≧▽≦)ノ🍹



 そして、共同生活をはじめてからも、オバケも掃除や洗濯といった家事を手伝ってくれて、休みの日は一緒にテレビを見たりゲームをしてる。


 わけ有り物件での同居人との生活は、思った以上に快適だ。

 布団に入って気持ち良さそうに寝ているオバケを見ながら、俺はそう思った。

(´ω` )zzZ



 おしまい👻




 ※このお話はフィクションですが、オバケのQ○郎のイラストを載せていた事故物件のホームページはガチでありました。

 気になった方は調べてみてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る