招かれざる客

駒井 ウヤマ

招かれざる客

「どうぞ、こちらが玄関になります」

 チッ、まーたやって来やがったよ。親父もさあ、いい加減に諦めろよなあ、まったく・・・。

 そりゃ、確かに俺も悪いよ。親父が経営するアパートに格安で住まわせてもらって、ちゃんと働くからって言って、ニートだもん。でもさあ、住んでる俺に断りなく内覧させて、強引に追い出そうってのは流石に情が無さすぎじゃん。

「へえ~、家具付きなんですね」

 おい、お前もバカかよ。そんな訳ないじゃん、使ってんだよ、俺が。

 まあいいや、テレビでも見てよ。どうせ、俺がいても無視して内覧進めるもんな、この社員もさ。これでも家主の息子だぞ、俺?

 おっと、もう12時じゃん、いつもの時間じゃん、ウキウキウォッチングじゃん。

「では、ここがリビングですね」

「広いですねえ。あれ?」

 あ!そうだったな。うっかりしてた、次ここを見る番じゃん。おい社員、「また付いてる」じゃねえよ。見てんだよ、俺が。

「あの、テレビは・・・」

「ええ、備え付けです。ああ、でも、別に買い替えて貰っても結構ですよ」

 え、買い替えてくれんの?ラッキー・・・じゃ、ねえよ。どの道、俺は見れねえじゃん。

「それにしても・・・あれ、壊れてるのかな?」

 壊れてねえよ、勝手に壊すな。てか、仮に壊れてたとしても、お前が見て何が出来んだよ。電気屋じゃなくて不動産屋だろうが、お前は。

「では、次のお部屋を・・・」

 消したまんま、さっさと出て行きやがった。ま、流石に俺がいる場所でゆっくり出来る訳ねえよな。災難だったなあ、客も。

「こちらは・・・」

「へえ~、綺麗なお風呂じゃないですか」

 お!目の付け所がシャープだね、お客さん。ToToだけど。

 そう、そうなんだよ。俺が最期に湯船につかって、次の日だったかな?親父が業者を呼んで、浴室から何から一切合切、スぺッとリフォームしたんだよな。ただ残念なのは、それから俺がいくら蛇口捻っても、お湯どころか水も出ないことだけど。

 あーあ、俺も入りてー。湯船浸かりてー。

「そして、最後が・・・キッチンですね」

「ここも綺麗ですね。これは・・・冷蔵庫ですか?」

 ようやく最後か。キッチンは綺麗だよ。俺、料理できねえもん。電子レンジと電子ケトルが友達さ。

「小さいですけど、中は使い易そうです」

 おい、馬鹿。他人ん家の冷蔵庫を開ける奴がいるかよ。まあ、何にも入ってねえけどよお、常識ってもんがあるだろうが、普通。

「では、以上になりますね。それで、お家賃が・・・こちらになります」

「ええ!?家具付きで、リフォーム済みで、こんなに安いんですか!?」

 マジかよ、そんな安いの。親父もとうとう本気になってんな。

「お決めになられるなら、ここで印鑑を・・・」

 おい社員テメエ。流石にそれはあんまりだろうが。せめて俺にも話を通せ、俺にも。

「い、いえいえ。それは流石に戻ってからで」

 よく言った、ナイス客!他人の冷蔵庫漁る奴にしては常識あんな。

 ああ・・・でも、なんかワクワクしてんな。戻ったらすぐ「あそこに決めます」って言いそうだな。どうすっかな・・・。

 そうだ!いつもみたく、最後に顔だけ見せとくか。散々無視してくれちゃったけど、こんな奴がいた家だぞ、ってのを思い知らせてやらねえとな。

 よっこいしょ、と。リビングのドアを開けてと、バア!

 ハハハ、丁度玄関出るところだったから、真正面から見やがった。血相変えて出て行きやがったな。お生憎様、俺はここを出て行く気はねえからな、ずっと。

 はあ~、疲れた。なんで家主の俺がこんな疲れなきゃいけないのかねえ、ホント。ああもう30分も経ってやがる。

 今日のゲスト、誰だったっけなあ、いいとも。


「ど、ど、どうされました、お客様」

「い、いえ・・・その・・・あの部屋は、空き室・・・ですよね?」

「え?ええ・・・そうですが・・・・何か?」

「そうですか・・・そうですよね。あの・・・」

「はい」

「あの部屋・・・事故物件ですよね?」

「ど、ど、ど、どうして・・・そう?」

「いえ、あの。まあ・・・色々ありますけど。最後のが」

「最後?」

「ええ。最後、僕らが玄関から出るとき、リビング扉開いたじゃないですか」

「え、ええ」

「そこにですね・・・その、見えたんですよ、ハッキリ。青い顔でこっちを見つめる男の顔が」


 

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招かれざる客 駒井 ウヤマ @mitunari40

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