結句

一の八

結句



トントン…トントン…グツグツ…


いつもの音、いつも香りだ。

この香りになぜか、頰が緩んでしまう


やがて、料理が運ばれてきた。

机の上に並べられた品々は、

どれも自分の好物ばかりが並べられていた。



「なんか、珍しいね!俺の好物ばかりだよ。」

「よかった、喜んでくれて!そうだと思って沢山、用意したのよ。うふふ…」

「どうしたの?何かいい事でもあった?」



結婚してから3年目になるが出会った頃変わらない様な空気が2人の間に流れていたように思えていた…


そう。この今、この瞬間までは、


マミが料理の仕度が終わり、

席に着いた。



「そうなの!こんなにいい事があってもいいのかなぁってくらい」


目の前に座る彼女は、

一枚の写真を突きつけて、そう言った。


そこに映る男女の姿があった。

ひとりは、私だ


「えっ……それってどういう……?」


「けっこう、時間かかったのよ。色んな所行ったりとかしてね。

最初は、自分でやっていたのだけど、やっぱり、素人には大変ね!

だから、プロにお願いしたの。

やっぱり、プロの人は、違うわね!

さすがよね。高額のお金とるだけあるわ!納得!納得!」


突然、語り出したマミの顔には、

もう自分が知ってる人では無い何か別のものように感じた

その表情には、一切の迷いがなかった


そして…


マミは、冷静さを取り持ったまま一枚の紙を差し出して静かに一言

「別れましょう」


これまで何事も問題なくやれていたはず!

何故だ!どこでバレた!どこだ!

考えろ、考えろ、考えろ……


全てがひっくり返ってしまうよな気分に襲われた


この後、どんな事が起きるか分からないけれども覚悟を決めた。

わたしは、目の前に広がる好物にも目もくれず箸を置いて席を外した。


床に手をつき、

人生の中で一番というくらい、気持ちであった。

いや、もはや今が人生で最大のピンチなのかもしれないな!とその思いで謝罪を口にした。

「……すまない」





流し台の向こうでは、ポツリと水滴の落ちる落としがした。


明日は、なんとかという会議があるんだったかな?


また、その次の日は新人の歓迎会か?

なんて子だったかな…

たしか乾杯の挨拶よろしくって課長に頼まれていたんだったな…

今どきの子には、なんて言うのが正解なんだろうか。


その次の日のあしたは…

あしたは…あしたは…あしたは…


あたしは……







「あのーお客様?もうお時間になりますのでよろしいでしょうか?」

ずっとその光景を何も言わずに見ていたメーカーの男性が声を掛ける。





「あっすみません。」わたしが答える。

「え〜もうちょっとやりたい〜」マミが言う。


彼女がどうしてもとやりたいというので付き合ってみたがなんとも言い難いものである。



「本当お二人とも仲のいい夫婦ですね!」

ハウスメーカーの男性が言った。


「仲の、いい、夫婦だって!」

マミは、ワタシの腕を組みながら笑顔を向けて言った。


婚約を決めてからの彼女は、いつもこの調子で私に話しかける。


「あっ…仲のいい、夫婦か…そうだね…」

どこかで自分の中にある違和感を感じていた。



わたしは、マミに腕を掴まれながら薬指に目を向けた。


思わずポケットに左手を入れてしまう。




ハウスメーカーの男が言う。



「では、次の場所へ案内致します」

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結句 一の八 @hanbag

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