シンニュウシャ

@kuramori002

シンニュウシャ

 日曜の朝。


 特にやることもなく、俺はリビングでまどろんでいた。どうも意識がはっきりしない。夜ふかしし過ぎたか?


 いっそ寝てしまうかと考えていると、突然、玄関ドアが開く音がした。


「さぁ、こちらです、どうぞ」


 男の声。


 なにがどうぞだ。俺の家だぞ。


「すいませんね、まだ家具が片付いていませんで」


 そう言いながら入ってきたのはスーツ姿の40代ぐらいの男だ。

 おいおい、何を言っているんだ? コイツは。


「いえ、こういうのも、住み始めたらこんな感じかなって想像がはかどって良いですよ。な?」


「そうね、悪くないわ。あ、あのテーブル素敵ね」


 スーツ男の後から、20代らしき仲睦まじい雰囲気の男女が現れた。


「ご契約いただければ差し上げますよ。どうせ、処分するだけですから」

 

 なんだんだ、こいつらは。


「おい、あんた、俺の家で俺の家具だぞ、何を勝手なことを言っているんだ!」

 俺はスーツ男の前に立ちはだかる―――


 ―――が、


「こちらがキッチンです。ビルドインの食洗器がありまして、こちらはまだ保証期間内でして……」


 スーツ男は俺を無視して、キッチンへと歩いていく。

 

 バカにしやがって。


 いや―――まてよ。そうか、そういうことか。


「おい、あんたたち! 何者だ? 里美の差し金か?」


 唯一の心当たりである妻の……しばらく前に息子を連れて実家へと帰っていった妻の名を出す。


 あいつが、この家に残った俺に嫌がらせとして、こいつらを送り込んできたに違いない。


「正直、このグレードの中古住宅で、この価格は破格と言って良いと思います。もし、気に入られたのでしたら、お早めにご契約を。ただですね―――」


 スーツ男と若い男女は話を続けている。


「おい! いい加減にしろよ!」


 堪忍袋の緒が切れ、思わず掴みかかる。しかし、


「先ほども申し上げました通り、前の住人が自殺してしまっている、いわゆる『瑕疵物件』であることはご了承願います」


 しかし、俺の手はスーツ男に触れることはできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シンニュウシャ @kuramori002

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ