第4話 みんなの白取さんに話しかけられないんだけど?

「いるんだよねー君みたいな熱狂的なファン。でも、ダメだよ? みんなの白取さんなんだから」

「はい……」


 俺は今、正座をしている。


「いや、気持ちは分かるんだよ? 白取さんのことが好きすぎて、ついついストーキングしたくなっちゃうよね? うん、分かる分かる」

「あのぅ……違くてぇ……」

「みなまで言わなくていいよ! うち、分かるから! 分かりみがディープだから」

「わかりみがでぃーぷ……?」

「でもさぁ? いくら好きでもやっちゃダメだって、分かるよね?」

「わかりみがでぃーぷ」


 正座している俺の前で、腕を組んだ女子が「うんうん」と頷いていた。この状況を見ればお分かりの通り――お説教の真っ最中である。


 時は遡り、俺が白取をストーキングしていた時のこと。

 俺は物陰から「にょき」と顔を出して、廊下で人に囲まれている白取を見ていた。


「白取さん? お昼ご飯はどうするの?」

「そうだね……今日はちょっと……保健室に……」

「あ! よかったら一緒に食べましょう!」

「あ、ずるい! なら、あたしも!」

「あ、あははは……分かった。じゃあ、みんなで一緒にお昼を食べようか」

「「わーい」」


 こりゃダメだ。

 と、物陰から見ていた俺は思った。


 さすが、みんなの白取さんである。ぜんぜん話しかける隙がない。常に人というバリケードで守られている。アリの1匹すら入り込む余地がないほどの鉄壁ガード。


「とはいえ、放っておくこともできないしなぁ」


 別に俺は善意に溢れた自己犠牲精神のあるヒーローではない。が、相手は想い人なのだ。想い人が苦しそうにしているのを見て黙っていられるほど、俺は悪人じゃないつもりである。


 そんなこんなで白取に話しかけられるタイミングを見計らって、こそこそと白取の後をつけていた。そこで俺は思ったぁわけです。


「あれこれストーカーじゃね?」


 と――。


「いや、いやいやいやいやいや?」


 違う違う。ぜんぜんそんなんじゃない。ストーカーってあれだろ? いやらしい目的のためにするわけじゃないですかぁ。俺はあれだから。善意にだから。善意。


 つまり、主観的に見ればストーカーではないのである。客観的に見て、ストーカーだったとしても。


 え? 下心? ありますよ?


「……」


 やはり、俺は主観的に見てもストーカーであった。


「そわそわ、おろおろ」


 おや?

 白取が1人でそわそわと言いながらそわそわして、おろおろと言いながらおろおろしているではないか。


 ん? 1人?

 話しかけるにはベストタイミングでは? 


 つまり、いついくの?


「今でしょ?」

「はい、待った」


 そこで俺は女子に行く手を阻まれた。林〇先生もびっくりだ。


「君、さっきから白取さんをストーキングしてたよね?」

「してました」

「潔いなこのストーカー」


 で、今に至る。


「いくら好きでもストーカーはダメ。分かった?」

「……」


 SFC――白取さん大好きファンクラブ。

 彼女たちは自らをそう名乗り、白取に近づく不穏分子を陰ながら排除し、白取を守る盾。


 なんてたいそうなことを言っているが、ようは誰かが抜け駆けしないようにみんなでみんなを見張って、出る杭を打つ。そうして「みんなの白取さん」を維持しようって連中である。


 俺はそのSFCに目をつけられたのだ。


「認めよう。俺は白取のことを下心満載でストーキングしていた」

「だから潔いなこのストーカー」

「というわけで、許してください」

「まあ、今回は初犯だし……大目に見てあげよう!」

「ありがとう」


 なんとか許してもらえた――が、SFCに目をつけられたのは痛手だ。顔を覚えられた。俺が白取に近づくだけで、彼女たちが警戒するのは目に見えている。


 これじゃあ話しかけたくてもかけれないぞ……。

 はてさて、どうしたものか。


「白取さん放課後どこ行く?」

「そ、そうだね……今日は……帰ろうかな」

「そう?」

「うん、ごめんね。みんなで遊んできてね。ボクのことは気にしなくていいから」


 今はこうして遠目に白取のことを見ていることしかできない。


「ん?」


 ふと、気づいた。

 白取の顔色がまた1段と悪くなっていることに。


「……悪化してる」


 明らかに今朝よりも体調が悪化している。俺は毎日白取のことを目撃するから99割分かるのだ。だから99割間違いない。俺の数学の点数は赤点ぎりぎりなので、計算には自信があるのだ。


 もしかすると、時間が経てば経つほど、さらに体調が悪化するかもしれない。なら、あまり時間はかけられないな……。


「……」


 そこまで考えて、あることに気づく。

 話しかけたところで、俺がなにか役に立つのだろうかと。


「いや」


 なにか変わるかもしれないじゃない。変えたいから、俺は話しかけようとしているんじゃないか。そもそも、行動しなければ俺はずっと蚊帳の外なんだ。


 自分から虎穴に入らなければ虎子は得られない。


「でも話しかけられないんだよなぁー」


 本当にどうしよう。

 どうにか直接話しかける以外の手段が……?


「おや?」


 よく考えたら俺が直接話しかける必要はないんじゃないか……?


「おお!」


 俺はぽんと手を打った。

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