第2話 悪友が変態すぎて困るけど?

 私立飛翔(ひしょう)高校。


 都市部近郊のベッドタウン――鳥籠(とりかご)市にある。

 最寄り駅の鳥籠駅から徒歩20分ほど。住宅街と工業地の間に建っている。


「おーい」

「ん」


 鳥籠駅のロータリでスマホをいじっていると、待ち人が駅から降りてきた。


 見るからに低い背丈で丸坊主という特徴的な風貌をした男子高校生である。名前は宇田川(うたがわ)文長(ふみなが)。俺のクラスメイトだ。


「遅いぞ、宇田川」

「これでも急いで来たんだぜ? ったく、いいよなぁ……学校から近いところに住んでるやつは。ギリギリまで眠れるんだからよぉ?」

「なら、お前も近いところ受験すればよかったんじゃないか?」

「正論パンチやめれ」


 宇田川とそんな感じでだらだら会話していると、「いたいた!」と聞き慣れた声が聞こえた。


「泊!」


 自分の名前を呼ぶ声に振り返ると、俺の母がパタパタと小走りで近寄ってきている姿が目にうつった。


「母ちゃん。どうした」

「どうしたもなにも忘れもの! あんたお弁当忘れてってるじゃないの!」

「あ、うっかり」

「もー! 高校2年生にもなってだらしない! もっとしゃんとなさいな!」

「ういー」

「心配だわ……!」


 母ちゃんは額に手を当てて、だらしない息子の将来を案じてくれた。優しい母を持てて、なんとも幸せだなぁ。などと、しみじみ思いました。まる。


「文長くん? うちの息子のこと、お願いね? いろいろ抜けてるところがあるから……」

「は、はいっす! お任せてしてください! お姉さん!」

「あらやだ、お姉さんだなんて。こんなおばさんに気を遣わなくていいのよ?」

「そ、そんな……ぜんぜんお綺麗で……」

「ふふ、ありがと」

「どきゅんっ」


 宇田川が母の笑みに胸を抑えて倒れた。友達の母を相手になにをしているんだこいつは。


「それじゃあ、お母さんこれから仕事だから帰るわね! ちゃんと勉強してくるのよ~」

「うい」


 俺は帰っていく母の背を見送りつつ、隣で「最高だぜ!」と最低なことを言っている友人に、蔑んだ目を向けておく。


「やっぱり、横木のお母さん美人すぎじゃね!?」

「まあ、客観的に見たらそうだな」

「綺麗な黒髪ロング! それを1つに結んで見えるうなじ! 切れ長な目で、きりっとした表情! 凛々しい顔立ちなのに、笑った時はえくぼができるんだぜ!? 可愛すぎだろ!?」

「友達の母親をどういう目で見てるんだ、お前は」

「言わせるなよ、恥ずかしい」

「逮捕されろ」


 逮捕されろ、と俺は思った。


「なによりいやらしいのは、あのムキムキな腕と脚……! ムチムキってああいう体のことを言うんだな!?」


 備考。

 宇田川文長は変態である。


 学校中の女子から目の仇にされ、風紀委員にはブラックリストに登録されているほどの――エロ猿である。


「なんで俺はお前みたいなやつと友達をやっているのだろう」

「同じ穴の貉だからだろ?」


 言えてる。


「俺はエロにすべてをかけてる男。そして、お前は睡眠にすべてをかけてる男……俺たち3大欲求に命かけてるから、こうやって意気投合してんだろ?」

「最初は、体育の授業でペアを作る相手がいなかったからってだけなんだけどな……」


 片やエロ猿と毛嫌いされ、片や寝てばかりで友達がいないぼっちがゆえに。


「そういえば、エロいといえば白取小鳩!」

「……」

「彼女は外せないよな!」

「本当に最低だなお前は」

「ボーイッシュな見た目で、王子様~なんて周りの女子から言われているほどのイケメン女子! みんなの白取さんとかって、ファンクラブまで作られてるくらいだ!」

「お前、この前ファンクラブの人にぼこぼこにされてたよな」

「ああ……いやらしい目で見るなって言われた」

「もっかいやられたら治るかな」

「それは無理だ」


 筋金入りだなぁ。


「なによりあの顔で、超巨乳ってのがたまらん! 腰の形もいやらしい!」

「本当に逮捕されるべきだな、お前は」

「悪い悪い。ただ、俺が言いたいのはだな……そんだけ魅力的な人だから、当然他の男たちが黙ってないってことだ」

「……」

「その点どうなんだ? 進展はあったのかよ?」

「(´・ω・`)」

「顔文字みたいな顔になっちゃった」


 進展……進展ねぇ。


「あるといえばあったような、ないような」

「なんだ? はっきりしないな?」

「……」


 昨日の出来事は、はたして進展があったと言えるのか。微妙なところだからなぁ。だが、なにもなかったと言うにはあまりにも衝撃的すぎた。


 なにせ目が覚めたら好きな人が目の前にいたんだから。


「俺はさ。俺みたいなやつと友達になってくれたいいやつな横木には、幸せになってもらいたいんだ」

「……友達想いなんだな」

「それが俺の唯一の長所だからなぁ」


 もっと誇れるところを増やそうね。


「と、噂をすれば!」

「ん?」


 言われて視線を動かすと――。


「白取さん! 一緒に学校まで行こ!」

「あ、ずるい! 私も私も!」

「あはは、それじゃあみんなで一緒に行こうか」


 女子に囲まれている白取がいた。


「……」


 白取小鳩――俺が彼女を好きになったのは、ちょうど2年に進級してすぐの頃である。

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