侵略拠点の内見
新座遊
アパートを借りよう
まずは秘密基地を用意しなくてはならない。
マニュアルでは知的生命体の少ない場所を選ぶのが良い、とあるが、大体そういう所は生活困難なケースが多い。
水も食料も現地調達出来ないのは中長期的にはコストがかかり、持続可能性に乏しい。
特に俺のような敵中潜行型の戦略的調査をする立場では、あえて知的生命体の集落に拠点を設けるべきではないか。
確かにバレるリスクは大きいが得られるメリットも大きい。
ここはマニュアルには従わず、ハイリスクハイリターンを選ぶ。
どうせなら都会だ。情報収集に適しているだけではなく、隣近所と距離を置くタイプの個人主義的な知的生命体が集まる場所であり、ちょっと変わった奴がいても騒ぎにはならない。
拠点を確保するにしても、土地所有は難しそうだ。
所有権というのは権力者が庶民から財産をむしりとる為の物語であり、いわば財産捕捉のツールなのだ。うかつに土地所有してしまったら行動に制限がつくだけでなく、権力統治機構の情報網にからめとられるだろう。
借家一択だな。
不動産屋を訪問する。
予約なしで行ったら体よく断られた。
予約して後日再訪問する。
「あの、予約していた者ですが」
「あ、申し訳ありません。店内ではマスク着用をお願いいたします」
近所のコンビニでマスクを購入し、ようやく店内に入れた。なんだこの文化は。
特に身分証の提示を求められることもなく、物件の条件を絞る会話になる。
「ご希望の条件は」
「保証会社利用可能な物件でお願いします」
「アパートやマンションどちらが良いですか」
「ええと、それじゃあアパートで」
幾つかのアパートを提案され、一番近い所を案内してもらうことになった。
二階建て木造住宅。
上下四部屋合わせて八世帯が住める集合住宅の二階左端。201号室と書かれている。洗濯機置き場がドアの外にあるが、どの部屋の前にも洗濯機が置かれていない。住民が居ないのだろうか。
部屋の中に入る。
玄関脇には台所。その奥には襖を開放している六畳程度の和室。
「必要最低限の家具もそろえています」
確かにちゃぶ台が、狭い六畳の真ん中に鎮座している。
なんとなく夜逃げしたあとの残置物を有効活用している雰囲気ではある。
「部屋はこれだけか。ちょっと狭いが」
「判っておりますよ」内見案内人が、俺の様子を見ながら囁く。「これをご覧ください」
部屋の壁を叩くと、壁が割れて、隣室に繋がった。そこは、怪しげな機械が点滅するマシンルームのようだった。
「秘密基地ならではのオプションとなります」
「な?なぜそれを」
「私どもはプロですので、お客様の秘めたご要望にも対応させて頂きます。まあ、人間ならざるエビの格好をしたお客様ですから、そこはそれ、ってね」
変装するの、忘れてた。
侵略拠点の内見 新座遊 @niiza
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