住宅の内見にて
月村 あかり
住宅の内見にて
蒼には行かねばならない場所があった。
とは言っても別に苦痛を強いられるような場所では無い。
逆に今日が楽しみでもあったのでルンルンした気分で待ち合わせ場所に向かった。
「凛津〜、おまたせ!」
待ち合わせ場所でもう自分を待っていた彼女に手を振る。
彼女である凛津は、イヤホンを外しながら片手をあげた。
なんともクールな反応だが、それもまた可愛いと思えてしまう。
「待ってないよ、行こっか」
凛津が自然に手を差し出す。
こんなクールな感じで、スキンシップとか好きじゃなさそうかと思いきやしっかりと手をつなごうとしてくれる。
差し出された手を迷うことなくぎゅっと握ると、2人で歩き出した。
「いいとこだといいな〜」
蒼がつぶやくと、凛津も頷いた。
今日の目的地は、これから2人で住む同棲先候補だ。
2人の家は徒歩3分というほど近い場所にあるのだが、蒼の1秒でも離れていたくない!という主張を凛津が受け入れる形で同棲が決まった。
「蒼、一生懸命選んでたもんね」
凛津の言葉に、蒼は幼い子供のように無邪気に笑った。
凛津の首元には誕生日に蒼が贈ったネックレス、蒼の左手首には誕生日に凛津が贈った腕時計がつけられている。
蒼は、その日にもう少しの間も離れていたくないと強く思ったらしい。
「お待ちしておりました。では、早速どうぞ」
蒼が見繕った同棲先候補にたどり着き、不動産屋との挨拶もそこそこに内見というやつが始まった。
家賃は今の2人の収入からして少し厳しいけれど広めの素敵な物件を見つけ出した。
日当たりも良さそうだし、キッチンも使いやすそうだ。
「どう?いい感じじゃない?」
蒼が凛津に感想を求めると、彼女は少し浮かない顔をした。
なにか気に入らない点があっただろうか…。
できるだけ凛津の望みを尊重したいので、彼女が気に入らないのであれば探し直そうと思っている。
「すごく…いいとは思う…」
蒼に気を使っているのか、なかなか煮え切らない反応を示す凛津。
さらに続きがあるだろうと、その瞳をじーっと見つめていると凛津は少し恥ずかしそうに目を逸らした。
…?なんだ…?
「でも…あの…。広すぎて…ね?もうちょっと狭い方がくっつきやすいかなぁ…なんて…」
頬を最高に赤くして、凛津がそんなことを言うものだから蒼は抱きしめるのを我慢するのに必死だった。
今は不動産屋が近くにいるので、我慢だ…!
いや、でも可愛すぎるだろ…!!
「うん、うん…!!もっと狭いとこ探す!」
広くても狭くてもずっとくっつき続けるけどな、と蒼は心の中で独りごちた。
住宅の内見にて 月村 あかり @akari--tsukimira
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます