閑話休題 アッカの秘密の副業

第36話 アッカと秘密のアルバイト


「はぁー、お金ほじぃー」


 土曜日の昼下がり、クリーピーのカウンターで茉莉はキノコが生えそうな雰囲気で項垂れていた。鴨はコーヒーカップを拭いながら、溜息をついた。


「一体どうしたの? 茉莉ちゃん。君の口からそんな言葉が出るなんて」


「いぃやぁ、お母さん達亡くなってから私、インスタントばっかり食べてたんですよぉ。いまはマスターにご飯作ってもらったりしてますけど、流石に悪いと思って自炊しようかなと思って……」


「ほう?」


「んでも、道具揃えるのってめっちゃお金かかるじゃないですか!?お鍋に調理器具に、食材に、あーーもう!」


「ふふ。最近は安物とか売ってるけど、一からってなると面倒くさいよね」


「そう、そうなんです!最近はトゥイスタとかでクッソお洒落なお弁当とか作ってる高校生もいるのに、私は自炊に関してはペーペーなんです!」


 茉莉はばっと起き上がって鴨を指さしたかと思うと、すぐにまたへたり込んだ。


「はぁ、バイト増やさないと、ですね」


「ちょっと、ちょっとぉぉ!!」


 そのとき、クリーピーに何者かが滑り込んできた。唖然とする二人だったが、すぐにその人物がモノノケダンスフロアに仲間、アッカであると分かった。アッカは相変わらず清掃員の格好をしており、肩でぜぇぜぇと息を切らしていた。鴨はグラスに水を汲んでアッカに差し出すと、すぐさま彼女は奪うように受け取り、それを飲み干した。


「一体、そんな慌ててどうしたんだい?」


「マスタぁ! バイトがぁ、バイトの人手が足りないんだよぉ!ファッキン忙しい!」


「ふーん、人手、か」


 その瞬間、鴨は横目で茉莉を見つめた。気づけばアッカも彼女を見つめており、茉莉は二人の視線に気づいた途端、ハッとした。


「い、いや、私は、その」


「茉莉姉ちゃん! つべこべ言わずにいまは一緒に来て!!」


 アッカは急いで茉莉の手を掴むと、人外の速さで駆け出した。


「うそぉぉぉぉ! どんな内容かも聞いてないのにぃ! マスタぁ、助け――」


「丁度良かったよ。楽しんできてね、茉莉ちゃん」


「この裏切り者ぉぉぉ!!」


 茉莉の叫びは誰にも響かずに、彼女は阿弥陀市の中を引き摺られていったのだった。

 

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