内見の話

春雷

第1話

 私は引っ越しをしたことがないので、当然、内見もしたことがない。しかしながら内見について何かを語らなければならない状況になってしまったため、なんとか捻り出し、内見について何か思い出はないか、聞いた話はないか、頭の隅まで突いて突いて考えたのだが、何にも浮かばない。何にも浮かばないとそこで話が終わってしまう。それは困る。

 困るので、内見にいくことにした。

 これを機会に引っ越すのも悪くないだろう。私は不動産屋に電話して、内見の予約をした。

 二日後、私は古びた一軒家の前にいた。蔦で覆われた、ボロい屋敷だ。長らく所有者不明だったが、最近になって所有者が判明し、売りに出されたのだという。

 一通り見てみた。確かに古いが、リフォームすればどうということはないだろう。

 以上で話は終わりだが、これでは何とも味気ない。味気ないと言っても、引き出しがないのだから仕方がない。そもそも私には話を面白おかしく語る才能がないのだ。

 仕方がないので、ネットで内見に関する面白そうな話を探そうとしたが、それはやはり反則か。ううむ。どうにか内見に関する話を作らなければ。しかし、どうやって話を作ればいいのだろう。私は話を作ったことがないので全くわからない。どうすればいいのだ。

 私は、買ったばかりのまだボロボロの自宅を歩き回りながら、ひたすら考えた。しかし何のアイデアも浮かばない。やはり私は馬鹿なのだ。どうすればいいのだ。

 自宅には地縛霊が五人いた。彼らにアドバイスを求めたが、話は通じていないようだった。一人は文豪みたいな髭を蓄えていたので、ぜひアドバイスが欲しかったのだが。

 勝手に家に住んでいる、吸血鬼とゾンビにも話を聞いたが、内見の経験はないという。フランケンシュタインの怪物やら、ナメクジやら、カエルやら、どこぞの老人やら、家にいるありとあらゆる人に聞いたが、内見のいい話は聞けなかった。

 私の周りで面白いことは起きない。やはり駄目だ。

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内見の話 春雷 @syunrai3333

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