チャリパイEp8~産業スパイにご用心~
夏目 漱一郎
第1話新しい依頼
いつも通り、平和な様相をみせる森永探偵事務所の午後に事務所でテレビを観ていた子豚が、突然、突拍子もない声を発した。
「チャー・シュー・メーン」
「何?コブちゃん~ラーメンの出前でもとったの?」
デスクのPCに向かってデータの処理をしていたシチローが、その声を聴いて顔を上げ子豚の方へと振り返る。
「ちがうわよ!ゴルフよ、ゴ・ル・フ」
テレビ画面を見ると、子豚が夢中になって観ていた番組は、女子プロゴルフのトーナメント中継であった。
「へぇ~コブちゃんゴルフなんてやるんだ」
キッチンで洗い物をしていたてぃーだが、思いがけないといった表情でそう問い掛けると、子豚は少し照れた顔で答えた。
「まだ始めたばっかりなんだけどね…ダイエットにいいのよ」
「いいな~アタシにもゴルフ教えてよ、コブちゃん」
ひろきも頬杖をつきながら、笑顔で子豚を持ち上げる。
難しいロングパットを見事に沈めてガッツポーズをしている女子プロゴルファーの様子を観ながら、子豚は呟いた。
「私も女子プロゴルファー目指して頑張ろうかしら」
「コブちゃんじゃあ、同じ女子プロでも女子プロレスラーの方がいいんじゃないの」
「ドライバーで殴るわよ…シチロー……」
そんな和やかないつも通りの森永探偵事務所のドアが開かれ、ある1人の男性がやって来た…
「あの…仕事を依頼したいんだが…」
その男性にはすぐさまシチローが対応した。
「いらっしゃいませ、ウチは何でもやりますよ」
続いて子豚。
「でも、お触りはダメよ」
「ここはキャバクラかっ!」
思わずツッコミをした後に我に返ったように、男はひとつ咳払いをすると、早速自分の名刺を差し出し自己紹介を始めた。
「申し遅れました…私はこういう者です…」
男の差し出した名刺には、こう記されてあった…
『
丁寧に男の出した名刺を両手で受け取ると、シチローはその名前を読み上げた。
「はなみずかんだろ~さん…」
「『かんだろ~』じゃなくて『かんたろう』です!」
よく冷えた麦茶を、依頼者の花水の前に出して、てぃーだが彼の名刺を見て尋ねた。
「『花神王子製紙』といえば、製紙業界No.1の大企業でしょ?そんな大企業が、ウチみたいな探偵事務所にどんな依頼にいらしたんでしょうか」
花水は、その質問に答える前に、ポケットから1枚の紙切れを出してテーブルの上に広げてみせた。
「それは何です?」
「実はこの度、我々花神王子製紙は
『そのままひと拭きでお化粧もスッキリ、吸水性も抜群で濡れても決して破れない』
という画期的な新しいティッシュペーパーの開発に成功したんです…これは、そのサンプルですが…」
「へぇ…『金魚すくい』の網に最適」
てぃーだが、その紙切れを見て頭に浮かんだ事をそのまま口に出した。
「そんな網使ったら店が潰れちゃうよ」
シチローが笑ってツッコミを入れる。
花水は後を続けた。
「それが、ついこの間からなんですが、このサンプルを社外に持ち出す者が居るらしく…もしや、私共の会社にその技術を盗もうとしているスパイが潜り込んでいるのではないかと思いまして…」
シチローが神妙な顔で、掛けている眼鏡をずりあげた。
「『産業スパイ』か……つまり、花神王子製紙に潜入し、そのスパイを特定して欲しいという事ですね?」
「お察しの通り!なにとぞお願いします!」
「わかりました!潜入捜査は、我々森永探偵事務所の最も得意とする分野です。どうか安心してお任せ下さい」
その後、一通りの事務手続きを済ませ、花水は帰って行った。
「そういう事だ!みんな、新しい仕事だよ」
「よ~し、花神に入社して、ボーナスをもらうぞ~」
「会社のイケメン社員と合コンするぞ~」
花水が帰ったとたん、そんな事を言って勝手に盛り上がる子豚とひろき。
「やる気あんのか…キミ達」
シチローが呆れ顔で溜め息をついていた。
♢♢♢
そんな訳で今回はシチローも含め四人で『花神王子製紙』に社員として潜入し、産業スパイを見つけ出す事になったチャリパイの面々……今日はその初日となる。
シチローは、普段のラフな服装からリクルート用のスタンダードなスーツへと着替えていた。
「いやぁ、スーツなんて久しぶりに着るなぁ~コブちゃん、ネクタイ曲がってないかな?」
「う~ん…ネクタイは曲がってないけど、性格の方がちょっと…」
「ほっといてくれっ!」
そして、チャリパイの面々は、シチローの車に乗って約束の時間に花神王子製紙へと出発した。
『花神王子製紙本社』…
業界No.1のシェアを誇る花神王子製紙の本社は、広大な敷地に複数の建物が建ち並んでいて、その敷地の周りを取り囲む高い塀には、幾つもの監視カメラが取り付けられていた。
「さすがに、セキュリティーには力を入れている様だな……」
駐車場からその建物の様子を見て、感心した様に頷くシチロー。
4人揃って会社の受付の前に立ち、花水の名刺を見せて面会を申し出ると、すぐさま連絡を受けた花水が上の階から降りて来た。
「いやぁ、お待ちしてましたよ
早速、人事部の方で人手の不足している部署を聞いてみましょう」
花水はそう言って、シチロー達を人事部の方へと案内した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます