マイホームの防音部屋
仲仁へび(旧:離久)
第1話
引っ越しをしよう。
彼氏がそう言ったので、私も「うん、そうだね」と同意した。
この前引っ越ししたばかりなのに、とは言わない。
彼氏の言う事は基本的に間違っていないからだ。
だから阿保な私如きが何を言っても意味はないのだ。
私は彼氏が得意げに「引っ越しをする重要性」について語っているのを、横でニコニコしながら眺めていた。
心の中ではもちろん「ばっかじゃねーの?」と思っていたけど。
私は今まで彼氏の言葉を想い浮かべる。
「俺は間違えない」
「お前は黙って俺の言葉に従っていればいいんだよ」
「お前は自分で考えるな」
こんな事を言ってくる人間、願い下げだ。
けれど、私には目的があるから、我慢して付き合ってやっている。
彼氏は私はそんな事を考えているとは思いもせずに「君は俺の事をきちんと理解してくれる素晴らしい女性だ」と言う。
本当に「ばっかじゃねーの?」
とりあえず引っ越し先を探すために、色々な家を見学することに。
あちこちの良さそうな住宅の内見に引っ張りまわされた。
はぁ、めんどくさ。
でもニコニコ笑いながら、付き合うしかない。
私は彼をおだてながら、さりげなく彼の意見を誘導していく。
「隣に家があったらいやだよね。あ、でもあなたの言う事の方が正しいと思うけど」
「今は田舎に移住すると、補助金が出るらしいよ。でも、あなたはお金持ちだから必要ないかな」
「防音部屋とか作れたらいいね。映画鑑賞好きだから。もちろんあなたの意見を一番に尊重するけど」
私のその言葉を聞いた彼は、見事に術中にはまった。
見学した家を参考に、自分で家を建てたいと言い出して、建築家に依頼。
俺が考えた一番の家、とやらを実現したいようだ。
お金があるから、夢物語ではないのが憎い。
それで、田舎の一軒家を建てて、防音部屋の追加を業者に頼んだ。
はぁ、本当にめんどくさい。
けれど、仕方がないわ。
私の目的のためだもの。
引っ越しの後。
ニコニコしながら映画のDVDを持って、防音部屋に向かう彼氏の後を追う。
私は、背中に包丁を隠し持ちながら。
ねけ、あなたは「俺と付き合った方がいい」っていって、皆に私との仲を言いふらしたよね。
付き合っていないのに、付き合ったって嘘を言って、退路を断ったよね。
そのせいで、私は好きな人と一緒になれなかったんだから。
仕返ししてもいいよね?
マイホームの防音部屋 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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