妖怪不動産

駄文駄文

第1話 あかなめ

 石燕いわつばめ市内 某所


 小雨降る少し寂れた商店街の一角にその不動産屋は存在していた。一見普通の不動産屋だが、変わった性質を持った極一部の者には有名な会社であった。


「ヨウコ先輩、掃除終了しました」

「只野君、お疲れ、それじゃあお店開けるわ」


 特徴のない若い男性の只野ただの ハジメがちり取りとほうきを手に話し掛けてきたので、自称街を歩いたら百人中百二十人が振り返るという傾国の美女、蔵馬くらま ヨウコは休業中の札をひっくり返し営業中に変えた。

 そんなこんなで仕事をしていると早くも最初のお客が入り口に立った。


「いらっしゃいませ」

「い、いらっしゃいませ」

「ここが、化野あだしの不動産で間違いないでしょうか?」

「えぇ、そうですよ。こちらへどうぞ」


 オドオドした童顔で小柄な男性が声を掛けてきた。

 ヨウコはにこやかな笑顔と言葉で接客用のいすに座るように促すと、部下の只野がお茶を入れるために給湯室に入るの横目にお客の正面に座った。


「本日接客をさせて頂きます。蔵馬 ヨウコと申します」

赤穴あかな 太郎と言います」

「率直に申しますが、お客様は妖怪ですね」

「っはい、そうです。やっぱりここが妖怪達に知られている妖怪不動産で良いんですよね」

「えぇ、そう言われることが多いですね」

「蔵馬さんは妖怪っぽくないけど妖怪で良いんですよね?」

「私は妖狐ですよ、化けるのが専門ですから。分かりにくいかも知れませんね」

「妖狐、花形ですね。僕はいまいちメジャーになれないあかなめです」


 二人の間に微妙な空気が流れた時、只野がお盆にお茶を乗せ、接客用の机に近づき一声かけお茶を配ると、ヨウコの隣の席に座った。


「彼は只野と言い、種族は人ですが見鬼、つまり幽霊とか不思議なものが見えるので、この会社に勤めているんで妖怪のことも知っているので気にしないでください」


 只野の介入に乗っかる形でヨウコは只野を紹介しそれに合わせて、只野が頭を下げた。


「すみませんが、あかなめというのは、どういった妖怪なんでしょうか?」

「只野君、勉強不足だよ。あかなめというのは、風呂場や水場のあかをなめとる妖怪だよ」

「そうなんですね」

「部下が失礼しました。それで今日のご用件は、物件の紹介でよろしいでしょうか?」

「いえ、いまいち地味な妖怪ですから。今住んでいるアパートが取り壊されることになったので、引っ越すしかなくなってしまったんです」

「物件の条件を教えていただけますか?」

「なんと言っても、お風呂場が広いこと、この一点につきます。あと贅沢を言えば古いお風呂の方が水垢が付きやすく好ましいです」

「そういう条件ですと……」

「あまりお金が無いし、仕事もクビになってしまったんですけど難しいでしょうか?」


 自分で言っていて不安になったのか、ひどくオドオドした表情で問いかけてきた。


「ひとつ心当たりがあります。すぐ近くなので実際に見に行きませんか?」

「今からですか?」

「えぇ、実際に見て頂いた方が分かりやすいでしょうから」


 戸惑う赤穴を連れて、店を出るとすぐ左手に大きな煙突が見え、近くの環境について説明しながら、三分ほど歩くと大きな煙突が付いた建物のすぐ隣の古ぼけたアパートの前に三人は立っていた。


「中へどうぞ」


 ヨウコは鍵を開けドアの横にずれると、あかなめの赤穴を中へと促した。

 赤穴が部屋の中を見回すと、ドアの一つを開け、中をのぞくと苦い顔をしてヨウコの方に振り返った。


「お風呂じゃなくてシャワーなのは困ります」

「部屋にはお風呂がなくシャワーだけなんですけど、実は大家さんがご夫婦で銭湯を経営をなさっているので、無償で入浴できるですけどいかがでしょうか?」


 ヨウコはさらに畳みかけるように一言。


「隣の大きな煙突がある建物がその銭湯なんです」

「えっ」

「ちなみになんですが、大家さんが高齢で銭湯の維持管理をやってくれる人を募集しているそうですよ」

「是非ここに住みたいです」

「では、大家さんに会いに行きましょう」


 アパートに車でのトボトボ歩きとは違い、しっかりとした足取りで銭湯に居る大家夫婦の元に急いだ。



 その後トントン拍子に話がまとまり、あかなめの赤穴は住処と仕事を両方得て、大家夫婦は大変な銭湯の仕事を赤穴に任せ悠々自適な生活を満喫している。

 後に銭湯の権利を大家夫婦から赤穴に譲られた。

 

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