第8話 潜入するなら変装するだろ?

「セイッ」


 今日もにえさんとの修業だ。

 ここ数日、追手から襲われる事が無い。


 私達を事を完全に見失っているのか、何か策を練っているのか。

 詳しい事は分からない。


 まぁ何にせよ私にとっては好都合だ。

 にえさんと修業を続けられる。


 この修業のお陰で私は前とは比べ物にならないぐらい強くなった。


 「ヘビィ・フレイムブレイク!!」

 「おっと」


 その最たる例が今のような場面。

 にえさんを力押し出来る事が増えたのだ。


 相手の体勢を崩す動きと技は私の中で磨かれてる。

 後は、相手の隙を突く為の手数さえあれば。


 「隙ありっと」

 「ッ!!」


 にえさんの剣が私の首に当たる寸前の所で止まった。

 実践なら、私はこのまま首を切られて死ぬ。


 「今日も失敗ですね」

 「まぁそんな残念そうな顔するなよ。リムスは確実に強くなってるから」

 「本当ですか?」

 「ああ。昔は楽勝だったリムスとの修業が今や重労働だ」


 にえさんはにっと笑って剣を鞘にしまう。

 ふらっと地べたに座り、額の汗を拭っている。


 私との修業で疲れているのは本当の事らしい。


 「そういえばにえさん」

 「ん。どうした」

 「私達、ずっと移動しながら修業を続けてますけど、どこか目的地となる場所でもあるのでしょうか?」


 私がそう聞くと、にえさんは「言ってなかったか?」と首をかしげた。

 普通に聞いてない。


 「ここから少し歩いた所に小さな町がある。その町のある店に、リムスの弱点を補ってくれる商品がある」

 

 「私の弱点ですか?それってー」


 「自分で言ってただろ?魔力量が少ないって。だったら増やせばいい」


 「そ、そんな事出来るんですか?!」


 私だって同じ事を考えた事はある。

 だけど、魔力量を増やすアイテムや魔法なんて見つからなかった気がするんだけど。

 

 そんな感じで昔の事を思い返していると、にえさんはフッと笑って私の疑問に答えてくれた。


 「それがあるんだよ。まぁ、リムスが暮らしてた所じゃ流通しないブツだから知らなくても無理ないさ」

 

 「何ですかそれ……すっごい怪しい空気満載じゃないですか」


 じぃ~っとにえさんの事を見つめる。

 にえさんは「大丈夫、大丈夫」とのらりくらりとした言葉で私の視線を躱していた。


 「ま、何にせよ今の俺達はお尋ね者。町へ行くなら変装しないとな」


 手をパンと叩いてにえさんがそう言うと、彼の肩からニュッと何かが這い出て来た。

 それは先端に球体を取り付けた一本の触手。

 球体は怪しい光を灯している。


 その光がパァっと私達を包んだその瞬間。


 「まぶしい……って、何ですかその姿!!!」


 にえさんが赤髪に女性の姿に変身していた。


 「ちょっとした幻覚さ。これで俺達は贄の王とリムスから、おばさんとわんぱく小僧に早変わりって訳」


 「今の私、男の子になってるんですか?!」


 「ああ。性別は逆転させて見せた方が分かりやすいだろ?」


 いや、そうかも知れないけど!!

 いきなりすぎて理解が追いついて無いですよにえさん!!


 「それじゃぁ、行くぞ」

 「あ、ちょっと待ってくださいよ」


 にえさんが私の手を取って歩き始める。

 傍から見ればお母さんと子供の男の子にでも見えているのだろうか。


 そんなどうでも良い事を考えながら、私はにえさんの言う町へ向かうのだった。

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