最終話 のこされたやすらぎ(2023お題:生き写しバトル/口移しサドル)
辿り着いたお社の境内には、光り輝く珠が浮いていた。
取り囲んで「心お弁当」の技を求めてみなは舞い踊ると、もわん、光から生み出された「お弁当」は踊る者らの懐へすうっ、と飛び込み溶け込んでゆく。その者らがひとたび指を振りかざせば溶け込んだ「お弁当」は先から再び生まれ出ると、空を自由自在と飛んでいった。わー、と追いかけ走るみなの喜びようは子供のようで、それきりお社を飛び出してゆく。入れ替わりと新たに技を求める者らがまた、珠の周りで踊り始めるのだった。
活気の中をかき分けて、伝書鳩らは見守る宮司の元へ駆けつける。
「宮司殿っ、我らお社の一大事を伝えに参った」
「なんと、いちだいじ、とな。おぬしらは?」
「聞けばおわかりいただけよう。さあ、お聞きくだされ」
その空をまた「心お弁当」は飛びゆき、伝書鳩らは宮司の前へ並ぶと伝え、端から順にだ。携えた文言を唱えていった。
「ぽっ」
「ぽっ」
「ぽー」
その同じ「ぽ」ながら異なる音程に、やにわにぶるん、と珠は身を震わせる。
「はっ。なんぢゃっ」
振り返ったのは宮司のみならず、囲み舞い踊っていた者らもまただった。
だが伝書鳩らこそうろたえはしない。むしろ唱える声へ力を込める。
「われらっ」
「鳩っ」
「まさか、圧縮がっ」
宮司がうがったその時だ。
「ぽっ……」
列の最後につくスケサクの元へと唱える番はやってきていた。
「サドル!」
伝書鳩らはズッこける。
(お決まり)
「スケサク殿、一体なにを! 口移しの文言は違うはず!」
伝書鳩リーダーは激を飛ばし、だがスケサクにはもう全てがお見通しだった。
「実に悲しいことです、リーダ」
しみじみ首を振り返す。
「わたしはあなた方の企みを知ってしまった」
そうして宮司へと向きなおった。
「ご安心くださいませ宮司様。こやつらここで
なんと、と宮司の身が伸び上がったことは言うまでもない。伝書鳩らこそ、明かされた企みに低く身を構えなおす。見る間に面持ちを険しくしていった。
「うぐぐぐぐっ。たかがお遍路とぬかったかっ。スケサクめっ」
なら、はっ、はっ、はっ、と飛び込んできたのは笑い声だ。
「わるだくみもそこまでよっ」
手頃な木立がないのだから自ら携え立っていた影から、お頭と
「貴様らがスケサクに吹き込んだのか。余計なことをっ。こうなれば鳩の力、みせつけてやるっ」
だとしてお頭は笑って肩をすくめて返す。
「そうとも。こいつは手に負えねぇと、もう呼んで来たってすんぽうだ」
「で、やんす!」
その通りと空で空気の震える音はした。
「てやんでいっ。峠ではすっかりだましてくれやがったな」
「恥ずかしいったらありゃしないよ」
「テロの現行犯だ。大人しく縛につけっ」
オー・メガネにオー・ハンドは嘆き、オー・フットが唱えたとたんロボの胸が左右に開く。漆塗りも麗しく、葵の御紋は現れていた。
ぱぁー、ぱぱら、ぱららぁ~。
(BGM みやびに)
「ははぁッ……。と言うとでも思うのかっ。バカどもめ。鳩どもっ。イザ、我らが力を見せつけよぉっ」
ノリツッコミも軽快と、怯むことなく伝書鳩リーダーは声を上げる。
合図に伝書鳩らはひとたび地を蹴りつけた。
舞い上がった宙で、闇の心をシンクロさせる。
肩車だ。
次々連なりひと塊になると巨大化。一羽の大きな黒伝書鳩、いやカラスへ姿を変えてズシン、オー・ブギョウの前へ舞い降りた。
蜘蛛の子を散らすようにその足元から、お社を訪れていた者らが逃げ出してゆく。スケサクにお頭たちも、宮司をかばい命からがら走りに走った。
背で炸裂するのは鋼のこむら返りか。はたまたまだ見ぬカラスの必殺技か。
だがどこか、何かがおかしかった。
向かい合った双方は、互いに技を繰り出しかねて、ただジタバタし続けている。
「まっ。まさかっ」
感じ取ったオー・フットが愕然としていた。
伝書鳩らも、やにわに雄叫びを上げる。
「そっ、そんなバカなぁー」
その通り、最後の一つを残すまでと解凍のパスワードを吸収した光の珠こと
「体が、のっとられるー」
無論、そんな
「でもっ。おっ、遅れてきてよかったワー」
だからして伝書鳩らはコジローに、オー・ブギョウはムサシとシンクロする。
「コジロォー」
「黒伝書鳩どもぉーっ」
完全無欠の以心伝心。
生き写しバトルと化して二刀流、オー・ブギョウはフックにパンチをカラスへ向かい繰り出した。
「やぶれた、りーっ!」
カラスの顔面に鋼の拳が硬くめり込む。
「きええええーっ!」
叫ぶオー・ハンドも命懸けだ。
食らった烏から黒い羽根は飛び散り、珠の中でムサシの一撃を受けたコジローも脳天より真っ赤と血を吹き上げた。
「ぴぎぃーっ」
「うわぁああああ」
のみならずお社中から叫び声は上がる。
「珠が島にぃっ」
「アナログ化するううううう」
そう。衝撃に、解凍しそこなったままでむりむり、島はカタチを結び始めていた。ずずん、と砂ぼこりを巻き上げて境内の真ん中、不法投棄がごとくでっぷり水を含んで島は瓦礫とうずたかくアナログ、実体化する。
上へ烏は身を投げていた。
見届け、オー・ブギョウたちも合体を解いていった。自らの
夕闇迫る瓦礫の中、ムサシと額にバンソコーを貼り付けたコジローが握手を交わす。
残念なことにもう圧縮された珠どころか、ついた勝負に
勤めてオー・ブギョウは伝書鳩らを引っ立てると、
様子にスケサクはたいそう心を痛め、お社のありさまに宮司も力なくくずおれてゆく。
だが全ては台無しになったのかと言えばそうでもない。
それまで分け与えられ続けた
そして限りあるからこそ人々は、その安らぎを取り合うことなく分け合うようになっている。
「おお、美味い美味い」
ついに
「いやー、ありがたや、ありがたや」
「おやおや、なにをおっしゃいますやら。どうぞお食べ下さいな。
「いやはや、ありがたい」
さて卵焼きの次は唐揚げだろうか。いやいや、春菊の胡麻和えの方がよかろうて。頬張って堪能し、スケサクは投げかけることにする。
「さて、食い終えたなら巌流島の瓦礫を元の海へ運びにゆくのだが、そちらもひとつ、共にいかがかな?」
おしまい
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