2話 ストーカー
恐怖体験から3週間ぐらい経った時だった。飲んで家に帰ったとき、私は、部屋で凍りついた。ブラウスをかけているハンガーのフックが、1つだけ、いつもとは逆になっていたから。
いくら、急いで家を出る時があるとしても、私がこんなことをするはずがない。誰かが、部屋に入ってる。
窓とか、割れているところもなく、入るとしたら玄関のドアからだからと思い、次の朝、急いで鍵屋さんに来てもらって、鍵を交換した。
鍵の交換をするまで、誰かが入ってくるんじゃないかと思い、一睡もできなかったので、鍵屋さんが鍵を交換した途端、疲れと安堵で、気づいたらベットで寝ていた。
ベットから起きると、お昼の2時過ぎになっていて、私は、今晩のご飯を作るために買い物に出かけた。
強い陽の光のもとで、人が多い繁華街を歩いていると、さっきまでの不安は薄れ、ハンガーのフックのことは忘れかけていた。
スーパーの中では、家族や若い男女が、今晩、一緒に食べる料理は何にするかと笑顔で話しながら買い物をしている。本当に平穏なひととき。私も、そんな姿を見て、自然と笑顔に戻っていた。
でも、部屋に戻り、手を洗おうとすると、いつも左に置いてある石鹸が右にあり、再び鳥肌がたった。朝はこうじゃなかった。鍵を交換したばかりなのに。
そうだ。スペアーキーは管理人さんに渡してあったんだ。管理人さんが犯人かもしれない。
「管理人さん、今朝、鍵を交換したけど、また、誰かが入った気がするんです。スペアキーは管理人さんに渡したけど、管理人さんが入ったんじゃないですよね。」
「何、言っているんですか。入るはずないじゃないですか。鍵を交換するとか、被害妄想が強いんじゃないですか?」
「そうじゃなくて。」
管理人さんは相手にもしてくれなかった。でも、間違いなく、誰か入っている。
警察に相談をすべきじゃないかしら。管理人さんと一緒で、警察も、気のせいじゃないかって、同じように相手にしてくれないかも。
2日後にも、再び凍りつくことが起こった。ハンガーに吊り下げているスカートのファスナーが下がったままだった。私は、いつもファスナーをあげて吊している。
私は几帳面だから、こんな形でハンガーにかけたりはしない。明らかに、誰かが触っている。これは、過去の経験からすると、ストーカーが私の部屋に入っているにちがいない。
盗聴器の有無を調べる機械をカバンから出して調べると、ブザーがなって、盗聴器が見つかった。
翌日、私は、怖い気持ちを抑え、会社からの帰りに、人気が少ない道を歩いていた。犯人をおびき寄せるためとはいえ、電灯も少なく、こんな暗い道を女性1人で歩くのは怖い。
そもそも、私をストーカーするなんて、どんな人なの。私は、普通にどこにでもいる女性で、ストーカーされるほど、男性の心を惑わせるタイプでもない。
そういえば、最近は忘れていたけど、私が乗り移った、この女性が、昔からストーカーされていたとか。
この女性、顔はとても綺麗で、スタイルもいいから、男遊びも派手だったかもしれない。でも、そんな昔からのことじゃない気がする。
ただ、最近、男性に遠くから見られているとか、夜道を後ろからつけられるとか、そんな気配は感じなかった。
普通は、郵便物をあさられるとか、なにか兆候ぐらいあるものだけど、ここ数日、急に攻撃されているような感じ。
そんなことを考えている時だった、急に、後ろに人の気配を感じたの。しかし、振り返る余裕もなく、男性がナイフで切り付けてきた。
ブラウスは切り裂け、背中は少しだけだが血で滲んでいる。いきなり襲われたことと、鈍く光るナイフの怖さで道路にしゃがみ込んでしまった。
そして、彼は、正面から、私のお腹を蹴ってきた。私の口からは血が出て、お腹も痛くて、何が起きているかよくわからないまま、顔を上げた。周りは真っ暗だけど、電灯でぼんやりと照らされた大学生ぐらいの男性の顔が見える。
知らない男性だったけど、物取りとか、強姦とかのようには見えず、目はつり上がり、なにかすごい恨んだ顔で私を睨みつけているでいる。
しかも、目はつり上がっているけど、口はにやけて笑っていた。切り付けられるまで、全く気配を感じなかったので、頭の中は真っ白だった。そして、その男性は話し始めた。
「お前は、顔が可愛いことを餌にして、多くの男を騙してきたんだろう。皮の下は醜い豚だ。俺は、そんなお前に天誅を下すんだ。」
「なんのことなの。」
「何、とぼけているんだ。お前のせいで死んだ男もいるって知っているだろう。」
「もしいても、私のせいじゃない。」
「そうやって、自分を正当化するんだな。お前は、本当に醜いな。この世の中から消えてしまえばいいんだ。」
その男性が、お腹を押さえている私の上に乗っかってきて、顎に手をかけ、顔を上げた。そして、にたっと笑うと、もう一回ナイフを振り落とそうと、手を上げた。
その時、こんなことが起こるだろうと思い、私が依頼していたボディーガードが駆け寄り、男性を押さえつけた。遅いじゃないの。
「なんで、こんな性悪な女を助けるんだ。お前も騙されているんだ。正気に戻れよ。」
男性は、大騒ぎをしたが、プロには勝てず、両手を後ろで縛られ、ボディーガードが呼んだ警察に連行されていった。
後日、私を襲った男が、付き合っていた人の弟さんで、お兄さんがお風呂で自殺したのは私のせいだと思い、私の行動を調べて、あの場所で殺そうとしたと警察から聞かされた。
部屋に盗聴器を仕掛け、どのような周期で外出したり、友人と会ったりしているのか、部屋では1人だけなのか、防犯グッズとか持っていないのかなど、周到に調べたらしい。
そして、今夜、この暗い道を歩いて帰宅するのが夜8時ぐらいだとわかったので、そこで襲う計画を立てたと警察から聞いた。
そうだったんだ。私が乗り移った女性の過去のせいじゃなかったのね。私のせいじゃないけど、私の過去の行動が引き起こした事件だった。
捜査をしていた刑事からは、恨みを買う人も悪いんだし、その結果、直接、私が手を出したわけじゃないとしても、お兄さんは自殺したんだから、日頃から、人から恨みをかわないよう平穏に暮らすことと注意された。
何を言っているの、私が悪いんじゃないのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます