迷子

一宮 沙耶

第1章 広島の夜

1話 転勤

 私は、地方の女子大をでて、IT会社に入ってから4年間、東京オフィスでシステムエンジニアをしていた。だけど、先週、広島のデータセンターに転勤するよう発令がでたの。


 仕事は、これまでのシステム開発とは異なり、ネットワークとかセキュリティの運用とのことで、あまり面白くないかもしれないけど、実は、転勤にはワクワクしていた。


 まずは、親元から離れて、やっと1人暮らしができる。親と一緒なのは楽だけど、男の人を呼んだりできず、制約もあった。いろいろとうるさいことも言われ、喧嘩もしたこともあって面倒だもの。


 1人暮らしを始めたら、まず、最初の休日は、ずっとベットでごろごろ、なにもしないで過ごそう。自由を満喫できそう。


 次に、大阪、神戸、福岡とかは行ったことがあったけど、その中間の岡山とか、広島とかには行ったことがなかったから、観光をしまくりたい。出雲大社とか行っても、東京からの飛行機代とか浮くじゃない。それって嬉しい。


 せっかくの機会だから、広島に行ったら、いろいろな所に行ってみたいな。宮島とかも素敵みたい。神社の鳥居が海の中にあるんでしょう。神秘的。


 聞いた所によると、フェリーで松山に行ったり、レンタカーを借りれば、出雲大社、松江、鳥取砂丘、尾道、別府とかも、そんなに時間がかからずに行けるらしい。


 これは、中国地方に限らず、四国、九州を観光できるチャンスよね。だって、毎週土日に、電車とかレンタカーとかで安く行ける。温泉とかもいいじゃない。


 東京の男性と、結婚に向けた恋愛をするチャンスは減るけど、3年ぐらい遊んで、それから東京に戻ってから恋愛相手を探すのだって遅くはないと思う。時々は東京に出張で戻ることがあるらしいから、そんな時に種まきはしておこう。


 それより、会社がくれたチャンスで観光をいっぱいしたい。また、食べ物も美味しそう。広島焼き、宮島のあなごめし、高松の讃岐うどん、九州の関サバ、いっぱいあるわよね。太らないようにしないと。


 ところで、転勤日については、前任者が、引き継ぎで2週間ぐらい本社に戻るのが遅れるということで、私も1週間遅れての広島転勤になった。


 そして、前任者が社宅をでるまでの間、1週間だけウィークリーマンション暮らしをすることになったの。そのマンションは平和大通りの横にあって、明日から出社ということで、前日は、夕方まで東京で仕事をして、夜8時に到着した。


 新幹線では、東京駅で買った牛タン弁当とビールをいただいて、スマホで映画をみてきて、そろそろ疲れたかなと思った時ぐらいに広島駅に着いたの。結構、新幹線だと時間がかかるのね。


 今日は8月6日、そう広島原爆の日。その時には、私にこんなことが起きるなんて想像もしていなかった・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る