内見士という雑魚スキル、現実世界で使ってみた

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内見士という雑魚スキル、現実世界で使ってみた

 「ああ、神様…。もう一回転生させて…」

 その言葉を最後に、俺は二度目の人生を終えた。

 

 思えばつまらない人生だった。


 一度目の人生、俺は建築会社で工事長、つまり現場の責任者として働いていた。

 しかしある工事で職人が一人事故死してしまった。俺のミスだ。家は完成間近だったのに。

 工事は白紙に戻った。


 俺は責任を感じて会社を辞めた。居づらかったというのもある。まあ、自分から辞めなくてもどうせクビだっただろう。

 その帰り道、トラックに撥ねられて死んだ。


 気が付くと神様が目の前にいて、俺にスキルを一つくれて、転生させてくれた。

 別に何か良いことをした訳でもないのにと思ったら、なんでも転生者が足りなかったらしい。

 

 これだけ聞けば、かなり運が良いと言えるだろう。


 しかし、問題はスキルの決め方だった。くじ引きなのだ。それも、当たり確率百分の一。

 人を死なせた者にはそれなりの報いがあるようだ。


 そして俺は内見士という訳わからんスキルを引いてしまったのだ。

 せっかく転生しても、これでは漫画やアニメのような異世界生活は送れるはずがない。


 そんなんだから、もちろん転生した二度目の人生もうまくいかず、魔物に襲われてあっけなく死んでしまった。


 

 そして現在、気が付くと何故かまた神様が目の前にいる。


 困惑していると、「済まなかった」と神様が頭を下げてきた。

 「少し勘違いをしていた。元の世界の工事現場でのことは君のせいではない」


 いきなりの事で混乱したが、神様の話をまとめると、事故は俺のせいではなく、神様は間違えて雑魚スキルを渡してしまったのでもしよければもう一回、今度は現実世界にも転生させてくれるらしい。


 願ってもない話だ。というかまず、事故が俺のせいじゃなくてよかった。


 さっそく俺は転生することにした。もちろん現実世界だ。内見士なんて異世界じゃろくに使えなかったからな。現実世界なら少しは役に立つだろう。

 それに、久しぶりに魔物がいない平和な暮らしがしたい。


 「ではゆくぞ」

 神様が言う。俺は光に包まれる。


 気が付くと、工事現場にいた。機械の音と木の匂いが懐かしい。同僚たちの顔を見るのも久しぶりだ。

 そうだ、今はいつ頃なのだろう。携帯を見ると、なんと事故の一週間前だった。


 そこで気付く。俺は時間を逆行したのか。でもなんで神様はこの時間に俺を?


 疑問に思ったが、今はできることをやろう。事故を止めるのだ。


 そう思いながら工事している家の敷地に入ったそのとき、目の前に画面が浮かび上がった。

 何だこれは。見ると、家の評価が書いてある。


 そうだ、俺は内見士だった。忘れかけていた。しかし、敷地に入っただけで評価が分かるとは、内見の定義は割とガバガバだな。


 でも、異世界ではこんなものは出てこなかった。異世界には内見というものがないからだろうか。異世界だと本当に雑魚いスキルだな。


 そんな事を考えつつ画面を眺めていると、『1兆円』という文字が目に入った。俺は思わず息を呑む。家の価値らしいが、この家はごく普通の一軒家だ。


 不思議に思いさらに見ていくと、なんと家に使うコンクリートに希少な宝石が含まれているらしい。


 こんなの誰かが知ったら――。


 そこまで考えてふと気づいた。一週間後の事故は事件なのではないか。宝石を狙った奴が工事をやめさせて、その隙に宝石を盗ろうとしたのではないか。


 そういえば、確かにあの事故は不自然といえば不自然だったかもしれない。


 それから、俺は夜も工事現場に張り込むことにした。


 数日後。今日も張り込んでいると、二人の人影が見えた。


 「おい、何してる!」

 俺は二人に懐中電灯を当てた。暗闇から浮かび上がったのは、会社の同僚だった。


 「チッ!なんでいるんだよ!」

 「顔を見られた。殺るぞ」


 驚いている俺に、二人が襲いかかってくる。まさか知り合いだったとは。


 俺はすぐに走り出した。早く逃げなければ。必死で逃げ込める場所を探す。

 たしかに事故を装うのは現場をよく知った奴じゃないと無理だな、なんてどうでもいいことが頭をよぎる。


 そろそろ限界だと思ったとき、視界の端に古い空き家が映った。とっさに中に飛び込む。


 すると、またあの画面が出てきた。すぐに二人も入ってくる。


 今はこんな家の評価なんてどうでもいい。閉じようとして画面を見ると、家の見取り図が目に入った。

 そこには地下室の存在が示されていた。


 地獄に仏とはまさにこのこと。俺はすぐに地下室に逃げ込み、しっかりと鍵をかけた。


 これでしばらくは大丈夫だろう。俺はすかさず警察に連絡し、なんとか事なきを得た。



 調べによると、二人は暴力団の下っ端だったらしい。まったく、変な事件が起きなくて本当に良かった。


 そして俺はコンクリートに含まれた宝石のことを社長に報告した。

 宝石はまったくの偶然で混入していたらしい。


 結局、そのコンクリートは社長の知り合いの会社が持っていった。宝石を貰えなかったのは残念だが、代わりに昇進を約束された。

 めでたしめでたしだ。



 住宅の内見は大事なんだなあとつくづく思った。神様はそれを気づかせてくれたのかもしれない。

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