酔っぱらい日記
順風亭ういろ
第1話完結
目が覚めると、お花畑が広がっていた。あぁ、自分は死んだのかな、と一瞬考えがよぎったものの、立ち上がると、近所の教会の花壇の中だった。
酒におぼれていた日々は、そんな出来事がよくあったもので。
ある日、目が覚めると、そこは電車の高架下の道で、まだうす暗かった。ほぼ明け方だったと思う。頬にべっちゃりと何か液体が付いていると思い、手で拭うと、拭った手にべったりと血が付いていた。そのまま立ち上がり、自分の寝ているところを見たら、血だまりが出来ている。その時は目覚めたものの、まだアルコールが残っていて、夢と現実の境目がなく、フラフラと帰巣本能で一人暮らしの家に帰った。
朝、もう昼過ぎ、完全に目を覚ますと、手に血がべったりと付いていて、小さく悲鳴を上げた。頭がガンガンと二日酔いの痛みの中に何か鈍痛があったものの、特に気にせず、水を飲み、歯磨きをしようと洗面台に立ち鏡を見たら、顔が血だらけの男が立っていた。「うわっ」と声が出たけれども、それは自分だった。どうやら、顔の左側のまぶたの上の方を切っていて、顔が血だらけになっていたようだ、血も乾ききってしまい、顔の左半分が真っ赤になって血が固まり、アシュラ男爵かバットマンの悪役トゥーフェイスのようになっていて、少し笑ってしまった。
それから「なんでだ?」という疑問が二日良いの頭にガンガンと響きつつも、血だらけの顔を洗うと、痛みはあまりないものの、顔にところどころ痣が出来ていて、腫れあがっていた。必死に記憶をたどるも、なぜこんなに血だらけになってしまったのかが、まったく思い出せない。夕方、友人と居酒屋で飲み始め、もう1件、もう1件で3件くらい回り、たらふく酒を飲み、最後に顔なじみのバーで飲んで、普通に店を出て、そこからの記憶があやふやだ。友人と一緒に途中まで帰ったのは、なんとなく記憶がある。喧嘩とかも特にしていない。と思う。楽しかったし。普通に友人からもまた飲もう的な旨の連絡来てるし。高架下で一瞬起きた時に、遠くでカップルが逃げるようにどこかに向かっていくのを見た気がした。強盗?という考えがよぎったものの、財布を見ると、ちゃんと所持金がある。タバコも買える。家からすぐ近くのタバコの自販機の横に灰皿が置いてあり、そこでタバコを吸って必死に記憶をたどる。道行く人が時折、私を見て、ぎょっとした顔をするので、早々に家に帰り、記憶を反芻する。それよりも、気がかりなことを一つ思い出してしまった。明日は弟の結婚で、親族一同が初めて顔を合わせる会があるのだった。結婚式はやらないから、一度そういう集まりをやろうという事でメールが来ていた。親族一同顔を合わせる会が明日に控えているのを思い出した。傷だらけの顔で行くのか。こんなスト2の負けた時の顔で…。とりあえず病院に行った。受付で急患並みに心配されたけども、医者の見立てでは、特に縫う必要もなく、あとは自然治癒にまかせましょうという事で、顔のところどころにガーゼを貼られたくらいで治療は終わった。特に大怪我ではなく、よかったものの、明日弟にどんな顔して会ったら、いいのかわからなかった。まぁ傷だらけの顔で会うのだけども。
急にフラッシュバックのように記憶が一瞬、蘇った。顔に何かがぶつかった時、車のサイドのウインドウが見えた気がした。車にぶつかったのだろうか?それか、事故?しかし、思い出せない。それよりも明日の弟の親族一同が集まる会だ。弟と両親には、とりあえず顔ボロボロだけど、大した怪我ではないから驚かないでくれ、と連絡を入れた。
翌日、親族の集まりは、弟の奥さんの実家の付近という事で、静岡の三島へ向かった。スーツで向かった。顔はガーゼと痣だらけ。両親と弟夫妻が駅まで迎えに来てくれた。「おい、兄ちゃん。なんでよ」と言われたものの、記憶が曖昧だったから、「酔って、顔ぶつけてん」くらいしか説明できずタクシーに乗り込んだ。三島駅の近くに料亭があり、そこに弟の奥さん方の親族と私の方の親族が何人かで、すでに集まっていた。割と広めの個室を取っていて、全部で15人くらい入っていた。席はコの字のような形になっていて、弟夫妻がいわゆる誕生日席のような所に座り、こちらの親族とあちらの親族で分かれて座る形だ。あちらの親族は皆さん初めましてで、子供が何人かいて、端の方で携帯ゲームに興じていた。私が席に着くと、目の前の子供と目が合い、私の顔を携帯ゲームそっちのけでジロジロと見ていた。それどころか、よくよく周りを見渡すと、あちらの親族一同が私をジロジロ見ては、コソコソと何か隣同士で話している様子が伺えた。やがて弟が仕切りはじめ、それぞれの親族の自己紹介を始めた。やがて私に順番が回ってきて、開口一番で「こんな顔ですみません」と言うと、あちらの親族一同が吹き出してしまい、「兄です」と言うと、会場が爆笑に包まれた。
会も何となく和やかに終わったので、結果よかったかもしれないが、弟に帰り際「兄ちゃん、持ってんな」と言われ、「そうでもねぇよ」としか答えられなかった。その日、三島の富士山がひときわ大きく夕日に映えていた景色は、はっきりと、今でも思い出せる。
酔っぱらい日記 順風亭ういろ @uirojun
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