恋の季節(白目)
紫陽_凛
ブラックヒストリカル・ストラテジー(1)
携帯電話を買ってもらったのは中学三年生、卒業間際、春の時分で、その日からぐわっと世界が広がったことを記憶している。
私が生まれたのはマクドナルドも映画館もなければラウンドワンもないド田舎だった。めぼしい遊び場も無かった。山と川があり大空があった。それしかない。
ゆえに娯楽という娯楽がない暇を持て余した中学生たちはちょっとしたワルに走ったり不純異性交遊に勤しんでいた。穴を掘らずともセックスとワルの話はちょっと叩けば埃のように出てきてそこら中に転がっていた。平和なものだ。
平和か?
私はと言えば聞きかじった知識だけを総動員して18禁ボーイズラブ小説を大学ノートにせこせこ書き、気心の知れた友人たちに共有するという「売人」めいた行為をやっていた。こんなでも学年トップを飾っていた
そうであってほしい。
ところで、記憶というものは遠ざかるほどに過大化し誇張されるものであり時折意図せず改ざんされているものであるから、事実と違うこともあるかもしれないことをご承知おき願いたい。また、これから出てくる人名は全て(仮名)である。
暇すぎるあまりきわめて刺激的かつ過激な暇つぶしをしていた中三の私、志望校の受験に無事指先で引っかかることができた紫陽凛は無事携帯電話を手に入れた。買い与えられた最初の携帯電話は親と同じキャリアのソフトバンク。まだキッズケータイなるものも登場していないころの、ぱかぱかと折りたたむタイプのものだ。水色を選んだ。携帯はすぐに私の世界の全てになった。
ところで、
まずその前提で話をさせてほしい。
GREEはどちらかというと今のカクヨムに近い形態のSNSだったように思う。マイページをデコレーションし、アバターを飾る。
マイページを訪れると、その人の投稿が「n分前」と見られるようになっていた。
私はここGREEで「
テニスの王子様のキャラのなりきりをしていた柚巴は「
雅治とメールアドレスを交換した私は、雅治が実は本名は柚巴という名前の、ちょっとボーイッシュな女の子であることを知るのであるが、ぶっちゃけ文字の上での付き合いで性別など壁が無いように思われた。好きだった。
当時同性同士の付き合いも今ほど顕在化していなくて、同時にインターネットの人付き合いも主流でなかった。今のように「ネットで知り合って」結婚・お付き合いなんてことはあまりなかったように思う。本当の名前も知らない友達とか、居なかった。そんな中で、私は彼女のことを結構好きになってしまったのだ。
ちなみに好きだったことは黒歴史ではない。
黒歴史はここから始まる。
ほどなくして柚巴に彼女ができる。彼氏ではない。彼女である。しかも私の嫌いなタイプの「かまってちゃん」だった。これが普通に男子だったなら私も冷静でいられただろう……。
冷静でいられなかったので、私はしっかり告白して振られたうえで柚巴にこう聞いた。
「高校で文芸部に入るんだけど、ペンネームに柚巴って名前もらってもいい?」
「いいよ!」
斯くして紫陽凛は、
高校の文芸部でペンネーム「柚巴」として活動を始めた。
柚巴の、「忘れられない女」になってやるという意地で!
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