白猫と赤い花

虫谷火見

プロローグ

「やぁやぁお客人。俺様の街へようこそ。」


ご機嫌な声に振り向けば、そこには恰幅かっぷくのいい一匹の猫。

そいつは毛足の長い茶トラで、黒みの強い茶色い目をしている。

尻で揺れているデカい尻尾は、実はタヌキなんじゃないかと疑うくらい太くてふさふさで、でも、真ん中くらいから二股に分かれている。


まさか、猫が喋るわけないよなぁとまじまじと見ていると、その猫が目を細めて口の両端をクッと上げ、ニヤリと笑った気がした。


背筋にゾッと寒気が走る。

その表情だけでもう、既に猫離れしている。思わず身震いしてしまった。


「ここは良い街だろぉ?何てったって俺様が取り仕切ってやってんだ。良いに決まってるってもんだ。」


猫は左右にゆらりゆらりと体を揺らしながら、こちらにのんびりと歩み寄る。


そして、コイツが喋ったってのはもう、間違いない。

ソイツの口が言葉に合わせて細かくぐねぐねと、猫らしからぬ動きで動くのを、目の前で見てしまったんだから…


猫は目の前でピタリと止まり、口を三日月みたいに細く釣り上げて笑う。


ヒヒヒヒヒ… 


やはり、あまり猫らしくない笑い声が耳に届いた。

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