第10話 『第三倉庫』と魔獣。
道中、何度かの戦闘を繰り返しつつも着実に探索を進めた俺達は、やがて目的地である『第三倉庫』へと到達した。
入り口のプレートにそのように書かれている、という理由でそう呼ばれている『第三倉庫』であるが、この場所は『放出工場跡
「よし、二人とも。気を抜いていいぞ」
そう言いながら、俺も近くの廃材を椅子代わりに座り込む。
俺の言葉に従って、亜希も十撫も同じく近くに腰を下ろした。
そんな二人を確認して、俺は浮遊する【ゴプロ君】へと顔を向けて口を開く。
「ここは
「空気が、違うね?」
「うん。なんか……怖くない感じよね」
なかなか新鮮な反応を見せる二人に頷いて、俺は鞄から水の入ったペットボトルとカロリーブロックを取り出して手渡す。
味気ない食事だが、きっと思ったよりも消耗しているはずだ。
メンバーのコンディションを整えるのもリーダーの仕事である。
「それともう一つ。この『第三倉庫』には、今回の探索目標があります」
立ち上がった俺は、【ゴプロ君】に向かって説明しつつ、奥へと歩いていく。
倉庫の隅、L字に設えられた壊れかけの棚に……小さな魔石がいくつかと灰褐色のキューブが置かれていた。
俺の視線に誘導されて、【ゴプロ君】が棚のそれらをレンズに収める。
「他の
「どうして、なの?」
気が付けば、食事を終えた十撫が俺の背後から顔をのぞかせていた。
「十撫、説明中なんだけど?」
「ごめん、ね?」
悪戯っぽく笑う十撫に、軽く苦笑して……アナウンスからレクチャーに切り替える。
「実のところ、理由は未だに不明なんだ」
「そう、なの?」
「ああ。この現象を解明する研究をしているグループがあるくらいだ。周期も内容もほぼランダム、ただ……」
「ただ?」
「報酬の増加が見込めるので、
十撫が俺の解説に「うんうん」と頷く。
「
「そうだな。今日は君達の
「勉強に、なります」
ぺこりと頭を下げる十撫の素直さに、少しばかりきゅんとする。
少し慣れてきて思ったが、美人というよりもカワイイだな。十撫は。
「今日のところは、ここが目的地。この後は引き返して今日の探索は終了だ」
「短くない?」
十撫の背中から、今度は亜希が顔をのぞかせる。
「そう焦るもんじゃないさ。今日の経験を元に、ギアやツールを君達仕様に最適化していく。『ピルグリム』シリーズはそういうコンセプトだからな」
「確かに、今日のあたし達って、『なんとなくそれっぽい』装備できちゃってるもんね」
……と、いうよりも。
普通の
まずは汎用的なギアから始めて、自分の
亜希が前衛、十撫が後衛という立ち回りが得意そうだということが、今回の探索で判明したので、ギアを調整すればもっと行動の幅が広がるはずだ。
『放出工場跡
「さて、魔石も遺物も回収したので、引き返そうか」
「おっけー! 休憩できたし、帰りも頑張れそう!」
「ん。頑張る」
気力十分、と言った様子で姉妹が笑みを見せる。
それに頷いて、来た道を引き返すべく、俺達は『第三倉庫』を後にした。
◆
「妙だな」
異変に気が付いた俺は周囲を注意深く見回す。
というよりも、太刀守姉妹は今日が
俺が感じている違和感になんて、気付けるはずもない。
「どうか、した?」
「いや。十撫、なにか感じたりは?」
「実は……ちょっと変だけど、ずっとヘンだから、わからないの」
十撫の鋭敏な気配察知が何かを捉えているようだが、やはり何がおかしいかまではわからないようだ。
こういう違和感はだいたい悪い予感で……そういう悪い予感は、だいたい当たる。
「……くる」
十撫がそう呟いた瞬間、背後で瓦礫が派手に崩れる音がした。
すぐさまマチェットを抜いて、背後に十撫を庇う。
「どこだ……!?」
「前の方、あっち」
十撫が指さす先に視線を向けると、もうもう舞う土煙の中に大きな影が見えた。
「ヤな感じ。ヒリヒリする」
ハンドアクスを構えて俺の隣に並んだ亜希が、顔をしかめつつも視線を鋭くする。
あれの殺気を感じられているのなら、もういっぱしの
「何だって一層に
「知ってる、
「ああ。ちょっとまずいぞ。亜希、十撫、撤退準備。出口の方向、覚えてるよな?」
俺の言葉の意を汲んだ二人が、同時に驚いた顔をする。
「一人で残るつもりなワケ?」
「ダメ、だよ!」
「そうはいってもなあ。緊急時は俺の指示に従うって約束だろ?」
こちらに唸る
熊に似た大きな体躯とそれを支える筋肉質な太い四肢を持つ生き物で、前足のかぎ爪は大型ナイフのように鋭く、人間の首程度ならすぱりと斬り落としそうなほどに発達している。
そして、まるで馬のような頭部のその口には乱杭にぎらつく牙がこぼれており、あれが草食ではないことは一目瞭然だ。
──『ザルナグ』。
主に
データベースに記載されるランクでは『A'』。
まさか、『ピルグリム』初の
本当に
「二人とも、行ってくれ」
「裕太、ダメよ。あたし達も一緒に戦う」
「置いていけない、よ」
そうこうする内に、ザルナグがゆっくりと距離を詰めてきた。
こうなると、二人の背中をヤツに見せるのも悪手か。
「ダメだ。俺が引き付けている間に、二人は隙を見て監視哨に助けを呼んできてくれ」
そう告げて、俺はマチェットをゆっくりと握り直した。
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