幽霊の住処

紫泉 翠

霊感ゼロの内見

 私、加来 咏は4月に上京を控えた新大学生だ。私は霊感がないため、他の人が心配するような事故物件であろうと、全く気にしないタイプだった。そんな私が目をつけたのは、家賃0円という魅力的な物件だ。


「事故物件で幽霊が出るって……まさか本当にいるわけじゃないよね?」


 咏は友人に冗談めかして言ったが、心のどこかで本当に幽霊が出るかもしれないという不安がよぎった。


 内見当日、咏は物件の前に立っていた。周りは静寂に包まれ、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。しかし、咏は不安を振り払い、勇気を振り絞って物件に入っていった。


 すると、そこには不動産会社の担当者が待っていた。


「こんにちは、加来さんですよね。内見ありがとうございます」


 担当者は丁寧に咏を迎えたが、その表情には何やら微妙な緊張感が漂っていた。


 物件内を案内されながら、咏は周囲を興味深く見て回った。部屋は古めかしく、壁には何やら傷や汚れが目立っていたが、それもまた味があって良いと感じていた。


「この部屋がリビングになります。」


 担当者の声が響く中、突然咏の心臓がドキッと止まった。目の前に何かが見えた気がしたが、それは一瞬で消えてしまった。


「な、何だったんだろう……」


 咏は気のせいだと思い込もうとしたが、どうしても不安が消えなかった。


 案内が続く中、物件の奥にある一室にやってきた。その部屋は特に不気味な雰囲気を醸し出しており、咏の背筋に寒気が走った。


 すると、その部屋の中から何やら物音が聞こえた。担当者も不安げに周囲を見回し、口ごもりながら説明を続けた。


「あの、その……この部屋は、以前に……」


 担当者の言葉が途切れる。部屋の中から何かが現れようとしているのが感じられた。


『怖いものなんてない!』


 咏が心の中で声を上げると、不思議な力が彼女の背中を押していた。彼女は勇気を振り絞り、その部屋に一歩踏み入れた。


 そこには地縛霊が現れ、咏を脅かそうとしていた。しかし、彼女は霊感がないためその姿を視ることはできなかった。しかし、雰囲気として他の部屋とは『何かが違う』、とは感じていた。


「これで怖がらせようとするのは無駄だよ!」


 咏は部屋に漂う不気味な空気に立ち向かい、勇敢に物件内を見学し続けた。その後、咏は幽霊の存在に気づくことなく、家賃0円の物件に入居することを決意した。


 それから数か月後、咏はその事故物件で静かな学生生活を送っていた。彼女にとって、幽霊などはただの噂に過ぎなかったのだ。


 今回の勝負は彼女の勝ちのようだ。

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幽霊の住処 紫泉 翠 @sorai_4572_

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