春から賃貸探し

だるまかろん

春から賃貸探し

 春から大学生です。ある人物のプロフィール欄に書かれていた。俺は怪しい、年齢詐称しているのではないか、胡散臭いなという印象があった。

 一年経ったはずなのだが、まだプロフィール欄に「春から大学生です。」と書かれている。春からも大学生なのか、なぜか違和感を感じる。まあ、俺には関係ない話だ。プロフィールの更新を忘れているのだろうかと考えを巡らしていた。

 春が何回も来ている大学生なのか……、それは羨ましい限りだ。毎日、授業やバイトに追われる俺とは、全く正反対だ。これは青春なのだろうか。

 俺は何となくネットを見ていた。すると、「春から大学生」のつぶやきが流れてきた。

「おはよう、ワンワン(犬のような絵文字)」

 そんなつぶやきを見た。俺は、少々不快に感じ、そのつぶやきを非表示にした。俺が春から大学生だとして、そんなに可愛らしい言葉や絵文字は、使用しないと決意した。

 こんな大学生がいるのは、世も末だなと思った。俺は、そんな大学生にはなりたくはない。今から将来を見据えて、冷静に行動しようと考えた。春から通う大学付近の賃貸を調べ始めた。

「鉄筋コンクリート、最上階角部屋、それから海や川から少し離れていて、最寄り駅から近い物件……。」

 理想の物件には程遠い。大学側がおすすめしている物件は、少し価格が高く設定されていた。俺は、こだわりを捨てきれず、安くて条件に合う物件を探した。

「お客様の条件ですと、こちらの物件がおすすめです。」

 不動産屋に紹介され、とある物件を見に行くことになった。

「こちらの物件は、最寄り駅から近いです。コンビニやスーパーマーケットも近くにあります。お風呂とトイレは別です。それから洗濯機置き場もあります。ロフトつきの六畳物件で……。」

「ふむふむ。すごいなあ。」

 俺は相手をバカにしているかのような相槌をした。不動産屋は顔色を変えることなく熱心に説明をする。おはよう(ワンワン)とは言わなかったが、ふむふむ(ワクワク)という食いつきはあったはずだ。

「こちらは木造です。」

 木造、というところが俺には受け入れ難い。音が気になり、夜に眠れないことが心配なのだ。

「鉄筋コンクリートの物件ありますか。」

 俺は不動産屋を睨みつける。これは戦場だ。より良い物件を紹介してもらうためには犬にでもなろう。

 結局、粘りに粘って、十件以上は内見した。そして俺は今の部屋に決めたわけだ。卒業や受験、入学が重なる繁忙期の不動産屋には頭が上がらないものがある。

 俺に彼女ができて、結婚して、それから子供ができて……、そんな未来を考えると少し楽しみである。いつか、一軒家を買うことになれば、また同じ不動産屋にしようと考えた。

「よし、やるしかねえな。まずは腹筋を鍛えて、イケメン目指すぜ。」

 俺は、腕立て伏せを百回した。

「はあ、はあはあ……、まだまだ、諦めないぞ。」

 部活を引退したあと、勉強に集中していたからか、体力が衰えていた。力尽きた俺は眠りについた。

 あの頃の俺は、現実よりも輝かしい未来の可能性を信じて行動していたと思う。

「おはよう御座います。(絶望)今日も会社行ってきます。」

 はっと目が覚めると、俺は社畜の日常に戻る。社畜って、暇にならないから幸せなんだよな。俺は仕事があることに感謝した。

「ありがとうございます……。」

 パソコンを立ち上げる手が震えた。ああ、自分は仕事が好きで興奮するようになったらしい。俺は今日も笑顔を作り、挨拶をする。

 俺は社畜になりたかったんだ。俺のデスクだけスポットライトが当たっているような、そんな気がした。俺は勤務を早々に終えて定時退社した。いつの間にか眠り、ああ、また幸せな朝がやってくる。

「春から社畜です。(ワンワン)」

 俺は早朝につぶやき、会社に向かった。

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