第10話 溢れる

穏やかな幸せ

傷ついた者への優しさ

日々迫る恐怖

………消えてくれない願い



穏やかな日々だった。

家事も。山の散策も。畑仕事も。生活していくということは喜びに溢れているのだと知る。

最初は戸惑った村人達の優しさも、素直に受け止められるようになった。

ただ時々、迫る死に心が囚われることがあった。悲しみでも苦しみでもなく、諦めと少しの寂しさ。姉もこんな気持ちだったのだろうか。もっと話をしたかったと、今になって思う。



「いよいよ明日か。寂しくなるな」

「泣いた時にそばにいてくれる人間がいなくなるからな」

サカドは弟を思い出しては時々泣いていた。そういう時は静かに隣にいた。

これ以上苦しませてはいけない。

その涙を俺のためにも流してほしい。

相反する想いは渦のように体を巡って止まらない。


「うわ!地震か!」

地面が揺れた。すぐにおさまったが、サカドは不安そうな顔をしている。


ああ、死の気配がすぐそこまで来ている。


「明日で全てなくなる」

待て。何を言う気だ。

「明日で天災は起きなくなる」

やめろ。それ以上は言ってはダメだ。

「……なんでそんなことがわかるんだよ」



「俺が明日死ぬからだ」

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