ドラマチックバイプレーヤーまほろば

筑波未来

第1話 『主役』と『脇役』

「彼はスゴいよ、まさに秀才だ!」

「これは現実なのか!?こんな奴に初めて出会ったよ!」

「スタイル、性格、勉学、スポーツ……何をしていても輝いて見える!」


そんな言葉がお似合いなのだろう。いや、お似合いだ。なぜなら、創立100周年を向かえるこの高校初の人物と言っても良いかもしれないからだ。県内では上の下辺り、言うなれば当たり障りの無い偏差値をもっているこの県立高校。難関私立高校や第一志望の高校を落とした者が受ける高校と言った方が早いかもしれない。そんな場所に現れた人物。


その名は『四日市元よっかいちはじめ』、私のである。



桜の木も青葉をまとい、夏の香りがもうそろそろ近づいてきた6月下旬の昼下がり。日曜日ということもあり、多くの人が買い物を楽しむデパートの中にあるカフェ。私、『御坊吾鷹ごぼうあたか』はただただとある光景を眺めていた。先ほど注文したホットコーヒーは冷め、氷無しのアイスコーヒーが完成していた位、時間は相当過ぎている。

「……今回は中々なの相手だな。」

思わず感心してしまう程、その光景はある意味見ごたえがある。さて、と3人の挑戦者、勝つのはどっちだ!


……改めて、時間を少し巻き戻そう。朝、日の出と共に彼もとい元に電話にてこのカフェに呼び出された。「相談したいことがある」と言う彼の言葉に私はため息をつきながらも馳せ参じた訳である。……何故、ため息をついたのか?それはあとになってからわかることなのでここではカットさせてもらう。そして、私が約束の時間にカフェにつき、ホットコーヒーを注文し終わったタイミングで彼がやって来た。ここまでだったらそのまま彼の相談に乗って帰るだけ……なのだったが、ここで思わぬアクシデント。私に声をかける前にかかった「あっ、元君~~♥️」と言う黄色い声。視線の先には同じ高校のクラスメート、女子3人。驚き、あっと言う間もなくささっと彼の道を塞ぐクラスメート達。そこから始まるトークの嵐。

「何してるの~?♥️」

「元君、一人?♥️」

「なんか、ここで会えるなんて嬉しい~♥️」

語尾に♥️が見える位、彼女らのあまーーーい声が私のところまで聞こえてくる。

(……あぁ、捕まっちまったか)

焦る様子もなく、「ちょっと用事でね」と会話をしている彼の目が悲観の視線を送る私を捉え、「(少し待ってて)」と訴えてくる。……まぁ、致し方がない。こうなってしまうのも過去に経験済み、諦めるように私はその光景を眺めることしか出来なかったのである。


……さて、回想を終えて現状を見てみよう。出会ってから30分経過。一向に退く気配の無い彼女ら。早く終わらせて、私の元に行きたい彼。両者のつばぜり合いが続いていた。

(さて、どちらが先に仕掛ける?)

熱いバトル、よりかは私にはただの余興にしか見えないおしゃべりを眺めながら冷めたホットコーヒーをすする。


「ごめん、みんな。」

先に元が動いた。

「今日は用事があって、それに時間も押していてね。だからここでみんなとはさよならしなくちゃいけないんだ。」

「えぇ~、そんなぁ……。」

「もう少しお話したいのに~。」

「ねぇ、それっていつに終わる?」

ここまでは、いつもの展開。元が去ろうとすると意地でも食いつくクラスメート達。

「けど、彼があそこで待っているからね。」

元が私に指を指した。クラスメート達の視線が私を見たとき、

「「「ひっ!?」」」

短い悲鳴が聞こえた。

「……あっ、私達そういえば用事あったんだった!!」

「ごめ~ん、元君。また今度ね!」

「早く行こう!早く!!」

そそくさとその場を去る3人を見送る元、それをただ眺める私。その内の1人がボソッと呟いた声が何故か私の耳に届いた。

「元君、いつも居るよね。と。」

……はぁ、やっぱりね。言われてしまう。どうも、あの言葉だけが私の耳に聞こえてしまう。けど、仕方がない。私はそのような役回りがお似合いだからな。



これは『主役』である元を引き立てる私、御坊吾鷹《死神弁慶》の物語。

『脇役』はただの友人Aにしか過ぎないのだから。

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