あれ、学校ってこんなに楽しいものだっけ?

運動会が終わり、土日休みを挟んで登校日。


正直、まったく休めなかった。


学校側は運動会の疲れを配慮して、日程を調整しているのだろうけど、

こちとら体なんて疲れてないのだ。


運動会が終わってから、ずっと頭の中で麗奈さんの言葉と顔がリフレインするものだから休もうにも休めない。


夢の中まで麗奈さんがでしゃばって出てくるものだから落ち着いていられない。


寝癖も今日に限って頑固だし、目の下に隈がひどいし災難だらけ。


それにそれに運動会の快晴の代償として朝から大雨だし、気分はどんどん下がっちゃう。


まあ唯一うれしいのは、お気に入りの傘をさせること。


鏡の前で身だしなみを確かめる。


少し髪が跳ねているけど、雨だから仕方ない。


学校の水飲み場で髪を整えよう。


すっかり足になじんだローファーに足を通して、白い柄が特徴的な傘を掴み外に踏みだす。


う~~。憂鬱だなぁ。雨だから余計に行きたくなくなる。


仮に好きな人?というか気になる人ができても学校は退屈なものに変わりない。


恋愛小説や漫画で心が浮足立つなんて言うけど私は全くそんなことないし。


どちらかというと休息を邪魔してきて鬱陶しい。


足早に学校に急ぐ。


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最悪だよ。


紺色だった靴下が見事に靴の部分だけ黒色になっている。


替えの靴下持ってきてない。


私は自分の足を見つめながら下駄箱で絶望していた。


気持ち悪いけど濡れたまんまで中履きに足を通すしかないよね。


ぼーっとしていた自分に非がある。


頭の中にいろいろと雑念が浮かんできて道を確認していなかった。


麗奈さん許すまじ。


33番の自分の下駄箱にローファーを立てかけて置いておく。


生乾きで臭くなっても嫌だしできることはしておこう。


中履きを床に落として、ぐちょぐちょの靴下を滑り込ませる。


き、気持ち悪い!


せめてもの抵抗でサンダル履きにする。


これならば蒸れを最小限に抑えられるはず。


あ、もう来ているんだ。麗奈さん。


13番の下駄箱の中には、ブランドのロゴが入った黒いスニーカーがちょこんと挿入されている。


そういえば、麗奈さんバスケ部だっけ。


この中学はバスケ部が強く、顧問の先生も力を入れているとのことで朝練もありハードだと有名だ。


そのバスケ部のキャプテンが麗奈さんだ。


まあ、当然と言えば当然だと思う。


クラスでも人気者で面白くて友達からも尊敬されている。


それに体は小さいのに、みんなを引っ張っていくリーダーシップもあるのだから、

キャプテンにはぴったりの人材だ。


顔も可愛いし、さぞかしモテてもいるだろうな。


足元の不快感を味わいながら教室へと向かう。


ピーっと笛の音や規則的に跳ねるような音が体育館から聞こえる。


いつもながらよく朝から体を動かせるなと感心してしまう。


教室の扉をいつものように開ける。


いつものことながら一番のりで教室に入れると思っていたのに

「はな花、おはよう!

元気している?」


どうして、どうして麗奈さんがいるの!!


私は呆然としたまま麗奈さんを見つめていた。


「私の顔になんかついてる?」


私は頭を振る。


「いやぜんぜん、いつも通りのお顔ですよ」


「硬いぞはな花ちゃん!

もっと気楽にしてよ」


そんなこと言われても、話したの運動会が初めてだし


その場で好きになっちゃった相手だし


嫌われたくないし


どうすればいいの。


なははと笑いがら、荷物を出し始めた麗奈さん。


まあ、たまたま私が登校してきたから話しかけてきたのだろう。


私も自分の席にこそこそと向かう。


朝から心臓に悪かったけどもう話すことはないだろう。


遠くから眺めるのがちょうどよいのだ。


それに女が女を好きなんて絶対報われないし、見ているだけの憧れならば傷も浅く済む。


リュックサックから教科書と筆記用具を取り出し、机に収納。


ちらっと麗奈さんの背中を見つめる。


小ぶりなポニーテールがちろちろと揺れている。


かわいい。


紺色のベストと半袖に身を包んでいる。


私も似たような恰好だけど、麗奈さんが着ると可愛く見えるから不思議。


スタイルもいいし、姿勢も綺麗。


清潔感を感じられるような髪の毛の艶と合わさってどこかおとなしめの雰囲気を漂わせている。


でも実際の性格はおおらかで人あたりが良く、猪突猛進型の熱血タイプ。


ギャップ萌えも強いだろうな。


それでいてバスケ部のキャプテンも務めて、カッコよさもぴかいち。


そういえばバスケ部はどうしたのかな?


雨の日であろうと体育館で練習はあるだろうし、練習している音は聞こえた。


どうしたのあろうか。


まあ、関係ないか。


足をくねくねと動かす。


うー気持ち悪い。


衛生的によくなさそう。


中履きから足を出しパタパタと動かす。


動かすたびに、ミントを足に塗ったようにスーっと爽快感が広がる。


気持ちいい!


すると椅子を引くとが教室に響く。


麗奈さんが席を立った。


どこか別の教室に行くのかと見つめていると、なぜか目線が合う。


それになんか徐々に近くなってきているし。


遠近法が崩れてのかな?離れれば離れるほど大きくなる世界線になってしまったのかな。


現実逃避してみても、麗奈さんの可愛いお顔が目の前に近づいてくるばかり。


「この前大丈夫だった?」

「この前?」

「運動会の時さ、顔赤くなってたじゃん?」

「あと、あれは.....」

あれは麗奈さんにドキドキしていたからなんて言えない。

心配そうな顔で私の前の席に座り首をかしげている。


「大丈夫だよ!ぜんぜん!

久しぶりに本気で走ったから酸欠だっただけだから」

「本当に?」

「本当です!」

麗奈さん目を細めてはにかむよう笑う。


麗奈さんの笑い声はよく教室内に響いている。


声が大きいのも響く要因なんだけど、笑い方が独特なのだ。


「なんでそんなに足速いの?」

「産まれつきですかね。」

「産まれつきであんなに足速いの?すご!」

「そ、それほどでも。」

ぼほぉと笑い声で笑う。

「飛んでるように走るよね。

なんて言うんだろう、

周りは地面に足をつけて走っているんだけど、

はな花は空から飛んで降りてきたみたいに...ん。

イヤもうわけわからなくなっちゃったアハハ」

「そうですか」

「まったくはな花はクールだなぁ~。

もっと砕けていいと思うぞ?」

ニコリと笑いかけてくる。


可愛いなと自然と頬がほころぶ。

「そうそれ!!

はな花めっちゃ可愛いじゃん!!

かっこよくてかわいいなんてずるいな!」

「あ、ちょっと、ほっぺた触らないで」

「このこのもっと笑え笑え!

折角可愛いのにもったいないぞ。」

ぷにぷにと麗奈さんから触られている。

ひんやりしていていて、ほっそりと細いゆびさきが私の肌に触れている。

「あわあわあわ」

「え!大丈夫なの?

また顔赤くなっているけど。」

私は急いで顔を引き、麗奈さんの手から顔を開放させた。

いそいで自分の頬に手を付けるとじんわりと熱を感じる。

「いや、これはその人と関わるのが久しぶりすぎて緊張しているだけで」

普段なら恥ずかしくて言えない理由をここでいう。

まだダメージが少ないからだ。

麗奈さんはきょとんした表情を浮かべた、すぐにいたずらっ子のような笑みを浮かべながら

「なら、はな花の心配だし克服させてあげないとなぁ」

「ナ、ナニヲデス」

「人付き合いをできるようにさ」

「いやいや結構ですよ!

麗奈さんの時間を使わせるのも申し訳ないですし」

すると麗奈さんがやさしく私の頬にある手をはがし両手で握ってきた。

「あは!?!?!>」

くすっと笑いが漏れ

「同性に手を握られただけで、顔がそこまで赤くなるなら今後大変だから

私が馴れるの手伝ってあげるよ」

同性だからじゃないよ!麗奈さんだからだよ!という心の声を言えるはずもなく

話は私の人見知りを治す事でまとまってしまった。


顔の熱が冷めるのと同時に話もひと段落した。


麗奈さんは話を振ってくれるけど、


なかなか話が続かない。


麗奈さんは楽しいのだろうか?


内心つまらないっておもわれていないかな。


そわそわとしてしまう。


足が無意識にパタパタ動く。


ゴーンと机から音が響いた。


それと同時に右足先に痛みが走る。


「いたぁい」


「どうしたの」

涙目になる私をよそに麗奈さんは私の足元を見た。


「靴下変えないの?」

あっと素早く足を下げる。

恥ずかしい見ないで!!


顔が熱くなるのを感じながら

「忘れたんです。靴下」

「忘れたの?」

「はい」

くくくっと笑いはじめ薄っすらと涙を浮かべている。

ずるい。こちとら痛みで涙が出ているのに。そちらは笑いで涙を出すなんて。


麗奈さんは笑い終わると席を立ち自分の席に戻る。

そしてリュックサックをガサゴソとあさりはじめ、ジップロックを取り出し、

席に戻ってくる。


席に戻ると中から靴下を取り出す。


「ほら、足出して」


何を言われたか一瞬理解できなかった。


麗奈さんはまとまっている靴下をほどきながら


「靴下貸してあげるから早く足出して」


「な、なに言ってるんですか!借りるのも申し訳ないし。

仮に借りるとしても自分で履きます!」


えーと唇を尖らせながら

「じゃあまあ借りてよ。

一日その状態だと気持ち悪いでしょ?」

それを言われちゃうと断れない。

私は渋々ながら靴下を受け取ろうとする。

「隙あり」

えっと声が漏れると同時に足先を何かに掴まれた。


そのままズルッと引っ張られていく。


やばい!と思ったが最後、反射神経で手をしたに伸ばしてしまったがゆえに机の下の枠に激突。


また大きいと音が響きわたる。


「痛いィい」

「ごめん!まさかそこまで驚くとは思わなくて」

申し訳なさそうにシュンと頭を下げている。

ジンジンする手を擦りながら

「大丈夫ですよ。

むしろありがたいです。

靴下を貸してもらえるなんて嬉しいです」

その言葉を聞いてすぐに元気を取り戻した麗奈さんは真剣な表情で

「でもこちらとしての気が済まないから、お詫びして靴下を履かせてあげたい。」

「いやだから」

手を伸ばそうとするとジンジンと脈打つ痛みが手の甲を駆け巡る。

これは手を開くだけでも痛そうだ。

顔をしかめた私を見据えて、麗奈さんはすっと席を立ち私の席の間の床に腰を下ろす。

「ほら、早く、ここまで来ちゃったら履いちゃった方が早く終わるよ」

私は観念した。

麗奈さんの方に体を向けて麗奈さんの膝小僧の先端につま先を移動させる。

麗奈さんはふくらはぎの方からゆっくりと靴下を下げていく。

「臭いかもしれないので息をとめといてくださいね?」

「どうしよっかなぁ」

「とめてください!!」

「わかったてば」

笑いながら右足の靴下がつま先まで下りた。

左手の掌でふくらはぎを触られている感覚はくすぐったい。

そこですーっと手を上下に動かされる。

「何をしているんですか?」

恥ずかしさを抑えるように小声で問いかける。

「いい脚しているね。

いい筋肉だ」

と専門家のような目で確かめている。

恥ずかしさで胸が締め付けられた。

両方の靴下を脱がせて白い足があらわになる。

「真っ白だね」

「まあ、運動会だったんで」

「そりゃそうだ」

けらけらと笑いながらくるぶしソックスを履かせようとする。

なかなかつま先に入らないことに顔をしかめながら

足を麗奈さんの太ももに固定させる。

「麗奈さん汚いですよ!それに踏んじゃってますよ”」

「いいの!それよりも履かせられないことにイライラする。

それにぜんぜん汚くないよ。めっちゃきれいじゃん。」

「あ、ううゥ」

私は足裏から伝わる麗奈さんの熱と柔らかさに頭をかき乱された。

普段味わうことのできない感触は心臓の鼓動をより大きくされる。


太ももに足を固定したのが良かったのかすんなりと足は、ソックスに包まれた。

濡れた靴下を丁寧に包んでジップロックで密封してくれた。


「そのありがとうございます」

「いいってもんよ」

にこっとグーサインをして席に戻っていった。

このブランドが好きなのだろろうか。

靴と同じブランドのロゴが入った靴下はすぐに心地よい温かさになった。

あっと麗奈さんの声が響きそちらを見やるとほらっといったように足首を見せてきた。

そこには靴と同じロゴの入ったいた。

麗奈さんは嬉しそうに

「お揃いだね」

「あ、うん」

じんわりと体がポカポカしてきた。

私は今、好きな人とお揃いのものを持っている。

足元を見ながら、明日どうやって返そうかなと胸を躍らせた。


【麗奈と周りと】


「麗奈大丈夫?

珍しくない休むの?」

「いや、どうしても外せない用事があってさ」

ふーんと明日香は納得がいっていないような顔をしている。

「もしかしたら、好きな人に告白したとか?」

「んなわけあるかい」

「本当かな?」

里奈は脇腹をつついてくる。

くすぐったい。

私は里奈の手を掴みながら、後ろで本を読んでいるはな花を見やる。

いつも一人で、周りともかかわらない。

周りのクラスメイトもどういった性格か知らない。

でも案外面白い子だったな。


少し警戒されているけど、もっと仲良くなりたい。

でもなんか私が話しかけると顔赤くなるんだよな。

もしかして嫌われているのかな。


その横顔を明日香はじっと見ていた。

まっすぐに何かを見ている。

その視線の先にははな花さんがいた。

明日香は余計に頭が混乱していた。







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