内見の憂鬱
とりあえず 鳴
内見の憂鬱
憂鬱だ。
住宅の内見とは、お客様の人生一番の買い物を手助けするものだ。
それは分かっていても、どうしても気分が乗らない時もある。
『なんにでも難癖を付けてくるお客様が来た時?』
それも嫌だが、買うのは結局その人なのだから仕方ない。
『優柔不断なお客様が来た時?』
それは全然いい。
むしろそういうお客様に買っていただけた時は「勝った」と思える。ちなみにこの「勝った」は「買った」と掛かってる訳じゃない。
余談はさておき、一番厄介なお客様はこういう人達だ。
「ここにぃ、赤ちゃんのベッド置けばいいかなぁ?」
「気が早いなぁ、でもそうだね、こういうところに置くのがいいかもね。どう思います?」
「そうですね、いいと思います」
一番嫌なお客様は、恋人いない歴イコール年齢の私の前でイチャつきながら内見するやつ……お客様達だ。
別にいい、話してることもいらないことが大半だけど合っているからいいのだけど。
「あ、この部屋って防音ですかね? 隣の人に聞かれると恥ずかしくて」
「もう、何聞いてるの!」
(ほんとに)
「防音のお部屋をお探しとのことでしたので、ご近所に声が聞こえるということは無いと思います。相当大声でなければですけど」
「だって。あんまり大きな声は出したらだめだよ?」
「それは私のせいじゃないじゃーん」
(イチャつくなら家でやれ。ここはまだあんたらの家ではない)
そんなことを思っても顔は営業スマイルを浮かべなければいけない。
家に帰れば全てを忘れられる魔法の黄色い炭酸水が待っているのだから。
「ここいいかもね」
「うん、そうだね」
それはそうだ。
普通は最後に一番いいところを持ってくるけど、私のメンタルの問題を考えて一番最初にいいところを持ってきてるのだから。
「ではこちらに──」
「でも一応他のところもいいですか?」
(続くんかい!)
そんなことを思いながらも、断ることなんて出来ないから次の内見に向かう。
今日は炭酸水がとても美味しいであろう。
内見の憂鬱 とりあえず 鳴 @naru539
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