嫉妬
「会長には私の恋人になっていただきたいです――って、会長!大丈夫ですか?」
パキっという音とともに手に持っていたカップが下に落ち、紅茶が床にこぼれる。彼が心配するが、私はというと力みすぎて割れてしまったカップの取っ手部分を持って放心していた。
な、何を言っているの?彼は?
今回に限っては困惑して当然だと思う。
私が彼の告白を受ける条件としてアブファイル・ハイター侯爵子息に勝つことがある。そんな現状で、彼は再び告白をしあろうことか2人きりで旅行に行きたいなんて……
掟破りにもほどがあるでしょう。
「あなた、今の状況が分かってそれを言っているの?」
「は、はい。それよりも床が汚れて……「そんなことはどうでもいいわ。後でべリエルにでも掃除させるから」
私は大きくため息をついて彼を少し睨む。
「分かってるの?今あなたがするべきことはアブファイル・ハイター侯爵子息と決着をつけること。私との旅行は彼との決着より優先されることと言ってるわけ?」
「優先される……というよりは今がベストだと思っての相談です」
「なんでよ。むしろ決闘の後の方がその……自然でしょう」
もし、その時期に行くことになったら本当に新婚旅行みたいになってしまうが。
「そうですか?ザネ先輩は生徒会が来月から忙しくなると言っていたので。遠出をするなら今しかないかと……」
「ああ……そういう意味ね。確かに、来月からは旅行なんて行く暇はないけれど……だとしても、やっぱり今行くべきじゃないでしょう。そ、それに恋人って……」
「いや、今しかありません。誰が聞いているかも分からないので、ここでは詳しく話せませんが今後の生徒会の動向、学園の治安にも関わってくることとは断言できます」
そこで私は誤解していたことに気付く。
「ただの旅行じゃないのね?」
てっきり二人きりでデートに行きたいのだと勘違いしていた。
「勿論ですよ。会長には恋人のふりまでしていただくのですから。相応の利益があることは補償いたします」
「え、ふり?」
「はい。先ほど言った通りそこでは会長には恋人のふりをしていただきたくて――」
私はうつむき彼から目をそらす。
いや、この勘違いはしょうがないでしょう。だって、彼は『会長には私の恋人になっていただきたいです』って言っていたもの。
よく考えたらこの場面でいうのは不自然だし…簡潔に言うと、と前置きはしていたとしてもよ!
全く心臓に悪い。
彼の前だといつもだが、彼のペースにのせられてしまう。
生徒会長として示しがつかない。勘違いだと分かった今、ここは毅然と対応しよう。
「言い分は分かりましたが……却下します」
「な、なぜですか?」
彼は初めて驚いた表情をする。
すべてが思い通りにいくとは限らないと教えないといけない。
「まず、言うのが遅すぎです。1週間後はすでに予定が入っていますし、たとえ旅行でなくとも遠出をする際、レディにはそれなりに準備が必要です」
「そ、それは申し訳なく思っています。そこをなんとか……」
「あと、最初にも言いましたが時期を考えなさい。君はこれからアブファイル・ハイター侯爵子息に決闘を申し込もうとしているはずです。どのような方法で接触をはかろうとしているかは分かりませんが、少なからず他の生徒から話題になるでしょう。そんな時に私と旅行に言っていたのがばれたら、良からぬ噂を立てられてしまうでしょう」
「う・・・・・・」
彼は私から目をそらししゅんとした表情になる。いつもの堂々とした雰囲気ではなく、弱気な表情は珍しい。
よし!いつも手玉にとられている分今回はガツンと言って、生徒会長、ひいては公爵家として体面を――
「分かりました。申し訳ないです。非常に嫌ですがザネ先輩に頼んで――「行くわ」
「え?」
「私が行くと言ったの」
「いや、でもさっき予定があるって・・・・・・」
「よく考えたら来週の予定はそれほど重要ではなかったわ。君が言うには今後の生徒会にも関わってくるのでしょう?そちらの方が総合的に見て優先すべきでしょう」
「でも準備に時間がかかるのでは・・・・・・」
「確かにそうね。でも実は今ザネには重要な仕事を任せているの。仕事熱心な彼女を邪魔するくらいなら私が行った方が良いでしょう。そう!これはザネのためよ。あくまでザネが行くよりも私のほうが適任だと判断したから。だから、絶対にザネには誘わないこと!いいわね!」
「は・・・・・・はい」
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