日記

自転

一ページ目

君が死んだ。


涼しい秋の日だった。

君の病室から見える紅葉の木から段々と葉が落ちていく。

それが君の命と重なって見えた。


毎日、お見舞いに行った。

病室についてから少しだけ話す。

会話は三十分ほどでいつも終わってその後は二人で窓の外を眺めていた。

僕たちは二人の時間をただ噛み締めるように味わっていた。


日を重ねるほどにやつれていく君。

どんな姿でも僕は美しいと思えた。


君が病気にかかってから君が死ぬまで、何日間あったのだろうか。

二人で過ごした最後の時間は、一瞬で過ぎ去ったように感じた。


紅葉の葉が散り切る前に、君が死んでしまった。

流れる雲、散りゆく葉、なく鳥の声全てが切なく感じた。


君が言った最後の言葉。

それは、僕の人生に大きな意味をくれた。

僕の生きる意味になった。


君と過ごした部屋。

二人で読んだ小説。

感想を言い合い、本棚にしまう。

小説は少しずつ増えて、いつの間にか本棚を埋め尽くしていた。

一冊一冊、手にとって君との会話を思い出した。

死んだ君を見た時涙は出なかったけど、今になって涙が止まらない。

滴る涙が君との思い出に滲んでいく。


本棚の最後に残った赤い本。

見覚えのないこの本は君の残した日記だった。


日記を開くと僕と出会う前、君の過ごした思い出が書き連ねられていた。

一ページ目を見た瞬間から枯れるほど泣いた筈なのに、涙がこぼれた。

最初に開いたページから進むことができない。


泣きつかれた僕は君の日記を抱きかかえたまま床で眠っていた。


朝起きると体中が痛んで立ち上がるのにも時間がかかった。

日記を見た僕は、これから日記に残された君の思い出をなぞろうと思った。

歯磨きをして、シャワーを浴びた僕はリュックに君の日記を入れ家を出た。


市街地から逆に向かう電車に乗って日記を開く。

最初のページにはこう書かれていた。


「7月27日 町から離れる電車に乗った。人は全く乗っておらず電車の

 音だけが聞こえる。車窓にはのどかな景色が映っていた。」








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