隣人

翠雨

第1話

 僕は、社会人三年目。事業の拡大にともなう人事異動で内見にきていた。

 すでに2軒内見し、最後の一つ。予算のなかでは少しリーズナブルな物件なので、一応見にきたという感じで本命ではない。

 空いているのは、二階の手前から二番目の部屋。不動産屋の男性が、シャッターを開けたり電気をつけたりと準備をしているあいだ、僕は玄関先で待っている。


 近くにスーパーもドラッグストアもある。少し歩けば商業施設もある。立地的には、なんの問題もない。


 始めに見たところの方が、新しかったんだよな。

 そんなことを考えていたら、お隣さんのドアが開いた。


 可愛らしい小柄な女性が出てくる。Tシャツにハーフパンツというラフな出で立ちに、マイバックに財布のみ入れて、片手にスマホを持っていた。


「あっ! お隣さん!! 203号室の宇津木ともうします。よろしくお願いします」

 隣に越してきたと勘違いしたのか、丁寧に頭まで下げて挨拶してくれた。

「岡田といいます」

 ペコペコ頭を下げるたびに肩の辺りで切り揃えられた髪が、サラサラと揺れる。

 内見にきただけの男を、隣人だと勘違いして挨拶してくれる彼女の天然さが、なんとも可愛らしい。

 「失礼しま~す」と、階段に向かう彼女が見えなくなるまで、目で追ってしまった。


 宇津木さんのことが頭から離れなくなってしまい、最後に内見した物件に決めた。

 引っ越してきて知ったのだが、彼女は大学生らしい。

 夏休みが終わったようで、朝、家を出る宇津木さんをよく見るようになった。

 寝不足のような顔をして登校することもあり、心配している。

 夜遊びするタイプでは、ないと思うのだが。


 新調したテレビが、たまに映らなくなるのも困っている。

 宇津木さんのことを考えているときが多いから、不思議だ。


 休みの日に、宇津木さんの家のインターホンを鳴らそうと思って、急にお腹に激痛が走った。

 もしや、この物件、事故物件だったのか??

 とにかく、宇津木さんに教えてあげなければ!!

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隣人 翠雨 @suiu11

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