KAC20242 住宅の内見

格の違い

　ええお客様、物件ですか。

　ではこちらはいかがでしょうか。

　ええまあ築十五年、少しばかり古びておりますがわが社がそれなりに修繕いたしましたので住むにはそれほど不自由でもないと思われます。

　しかしお客様は…ええお一人様ですか。それは少しばかりよろしくありませんね。

　まあ見ての通り、この家は二階建ての５LDKでして。どう考えてもお持て余しになってしまうかと…

　ええ一向に構わないと。

　では、内見へと向かいましょう。

「これが一千万円か？」

　はいそうです、こちらがその家です。

　駅から徒歩十三分、やや住宅街からは外れていますが一番近いスーパーはその駅のすぐそばで徒歩十五分、小学校中学校も徒歩十分圏内、そんな場所でございます。

　ではご案内いたします。

　まずは玄関すぐ前のリビングです。

　きれいですか？まあ本当に大変でしたよ、二人…がかりでどうにかするのは。ああ、床がガタが来ていたのでね。これは失敬。

　続いてはトイレと風呂です、もちろん別になっています。え？浴槽だけ妙にきれい？まあ、実は前購入者が壊してしまいましてね、いやあ参りましたよ。

　そしてリビングです。まあリビングと言ってもぶっちゃけありふれたフローリングの部屋なんですがね。ここはとてもいい部屋です。家族のだんらんの声が聞こえて来そうですよ。

　まあ問題は、その隣の寝室なんですがね。ここベッドがきれいに見えるのは浴槽と同じでしてね、前の購入者が使えなくしてしまったんですよ。もちろんそのための代金は頂きましたが……本当、もしここを買うのならばちゃんとしてくださいね。

　ああ二階ですか、二階はそれこそ子供部屋二つです。それだけです。

　とまあ、そういう事です。

　えっ！？お住まいになると！？そりゃまあありがたいですがね。まあ、ならばよろしくお願いします、ハイ……。

　なんて言ってからもう五十年経ちますか。

　ついにあの人はこっちに来てしまいました。

　建物は二度生まれ変わり、四人の子どもと八人の孫に見送られ、先行した四人を爽やかに見送りながら。

　え？先行した四人？あの人の奥様はまだあっちの人で、どちらの父母もここには住んでおりませんでした。

　十五年も四人であそこに暮らしていたのにわずか三年で追い出されるなんて……　本当、愛の力は偉大ですね。