第12話 皇女様

 



 ダーヴィン帝国領





 ホタルがホームで寝転がりながら、食事をしている頃。


 人間だったホタルを殺した張本人である第二皇女様、ティリア・ダ・カエサルは自分の部屋で豪華な椅子に座り、肘掛けに肘を立ててつまらなそうな顔をしていた。


「……まだ見つからんのか?」

「はい、すいません。まだ見つかっておりません」


 どうやら、ティリアは探している者がいて、それがまだ見つかってないことから不機嫌だった。

 それに対して、跪いて謝っている女性は無表情でティリアの顔を見ていた。


「メニアは私と同じように魂の色を見れる。魂の判別など、出来ないことはないだろう?」


 メニアとは幼馴染のように、小さい頃から育ってきた主従の関係である。


「はい、ティリア様が言っていた通りに深淵の黒色をした魂を探していますが…………」

「あぁ、深淵の黒色。そんな色を宿した魂なんて、今までで一度しかなかった。あの時だけだ」


 あの時とは、十数人の子供と一人の大人を別の世界から召喚してからーーーー殺した時のこと。始めの攻撃を避けた男、殺す前に少しだけ話した者。


「あの者の魂は他の者と比べにもならないぐらいに、綺麗だった。他の色なんて一切も混ざり合わなかった純粋な黒。そんな色は数々とあるまい」

「しかし、帝国領の中ではそんな人物はいませんでした。でも、何故、その魂にこだわるのですか?」

「そうか、あの時はお前はいなかったな」


 召喚をしたのは、100年ぐらい前。その時はまだメニアは生まれてはいなかった。だが、100年も経っているのに、今のティリアは身長が140センチもなく、10代前半ぐらいにしか見えない。

 どうして、召喚した時よりも若くなっているのか。それは、ティリアも死ぬ前に転生をしたからだ。

 少女と言える歳まで成長したティリアは、前世の自分が召喚して殺した生徒達や教師の転生者を、探し始めた。

 そして、集めた転生者を城に招き、兵士や魔導師への士官を勧めた。

 今のところは、十二人の少年と少女が帝国の駒として成長している。

 ちなみに、前世の記憶は残されていないからティリアに殺されたことも覚えてない。


「まぁ、いい。今まで見つけた奴らとは一線を隔てたような奴だ。あいつなら他の奴らと大体同じ時期に生まれるように調整したのだから、何処かで転生している筈だ」

「では、もう少し捜索範囲を広げますか?」

「そうだな。任せる」

「はっ」


 魔法を使ったのか、メニアは返事を返した後は煙を残して消えていた。




「……はぁ、何処にいるんだ。名前ぐらいは聞いておけば良かったか?」


 名前を聞いておけば、見つかる可能性が高くなるわけでもないが、帝国領にいる筈の、深淵の黒色をした魂の持ち主が見つからないのは予想外だった。

 索敵能力が高いメニアがまだ見つからないということは、まだ転生してないか帝国領にいないかのどちらかになる。

 まさか、あの魂を持つ者が転生した後に死んでしまったとは考えたくはない。


 どうすれば、見つかるか自分の部屋で考え込んでいたが…………


 コンコン


 ティリアの部屋にノック音が響いた。ティリアはスキルで扉の向こうにいる者が誰かわかった。


「はい、お姉様。どうぞ」


 先程と違い、優しい声でノックに返事をする。返事を聞き、お姉様と呼ばれた女性が現れる。

 柔和そうな笑顔を浮かべて、何処にもいそうな優しそうなお姉さんに見えるが、その女性は第一皇女、クレア・ダ・カエサルなのだ。


「失礼します。……あら、メニアがいないわね。またメニアに捜索を頼んでいるのかしら?」

「はい。どうしても見つけたくて……」

「お姉ちゃんに頼めば、こっちでも探してあげますよ?」

「いえ、見返りが怖いので止めておきます。それに、私かメニアではなければ見つけることが出来ないので、意味はないのでは」

「いやん、つれない可愛い妹ねぇ。見つけたら抱き着き10分をお願いしたいだけよ?」

「お断りします」

「残念ーー」


 ティリアはここで表情が崩れ、いつものティリアに戻る。呆れの表情に、溜息を吐く。


「もういいかな? 優しい妹ゴッコは」

「もぅ、もっと~」

「もう充分でしょ? 私は第二皇女で貴女は第一皇女だけど、実際は私の方が歳上よ」


 ティリアは転生しており、前世の記憶、知識、経験は受け継がれているから


「あら、それは精神年齢ででしょ? 肉体年齢では私の方が歳上だから、妹はお姉ちゃんの玩具になってよ!!」

「玩具と言いやがったよ!?」


 第一皇女である姉はあっ、と口を塞ぐが、もう遅い。クレアはテヘッと戯(おど)けながら部屋から出て行った。




「ったく、何をしに来たんだよ……………………む?」




 クレアが立ち去った跡に、一枚の紙が落ちていることに気付いた。その紙を拾って、内容を確認してみると…………


「これは、…………ふふっ、本題はこれか。面白い!!」


 ティリアは先程の表情と違って、楽しそうだった。その紙には、『新たなダンジョンの発見』についての内容が書かれていたのだったーーーー






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