新居の内見で家賃交渉したら最終的に美少女と住むことになった
床の下
やったぜ
彼女の死体は確かに内見中の部屋の壁中から見つかった。
「ね?言った通りでしょ?」
「ほんとだったとはね…」
けたたましい都会の喧騒の中、彼女は可憐に笑った。
―――
「お安くしますよ」
「マジっすか」
田舎から上京した俺は不動産屋の安い営業トークを聞きながら部屋をぐるぐると歩いて見ていた。正直、この値段が安いのか良くわからないがそれでも俺の懐事情を考えると少し高く思える。
都会モンが値段交渉するか分からないがTVでは家賃交渉で8割下がった例があるらしい。やってみるのが良いだろう。
「あのー」
「そんなテンションで行こうとしても駄目だよ」
へ?間抜けな声で振り返るとそこには黒い髪の美少女がいた。こりゃ、俺にも花のある人生がと思ったが透けている。都会の女性は好感度が低い相手の前だと透明度を上げて透明人間になるという話を聞いたことがあるが事実とは。
「思ってること間違いだと思うよ」
呆れた調子の可憐な彼女がくいくいと手招きする。ちょうど不動産屋から見つからない位置。
「君、この物件気に入ったの?」
「日当たりも良いですし、コンビニもスーパーもホームセンターも近くにありますし」
「強いて問題点を上げるなら?」
「家賃が少し高い所?」
「いいね、気に入った。じゃあ君がここに住めるようにしてあげよう。私が言ったことを守るんだよ」
彼女に耳打ちされた事を聞いて少し驚いて、俺は不動産屋の元に向かう。
「あのー」
「どうなされました?やはりここに?いい場所ですよ、日当たり良好、スーパー・コンビニ近く、銭湯だってありますしなんならホームセンターも…」
「ここ事故物件ですよね?」
―――
「ナンマイだぁ、なんまいだぁ」
「正式には難舞打封だよ。偉いお坊さんがとある霊魂の怒りを鎮める時に難解な舞踊を踊ったんだ。その時唱えたのがなんまいだぁ、そしてその様を漢字に当てはめたのが難舞打封だ」
「へー、為になる」
俺はボロボロになっている死体を近くの山に埋めながら彼女と話をする。奇妙な体験だが実際起きているのだから仕方がない。死体を埋め終えて、俺はようやく訪れた静寂の中で少し深呼吸する。
空気がうまい。
東京には山なんかないと思ってたが案外、森や林も点在している。中には琵琶湖より一回りい小さい湖まであるのだから驚きだ。
ホントはそこに沈めるつもりだった。
「これでもう消える感じなんですか?」
「うーん、どうだろうね?霊の鎮魂に必要なのは埋葬だからね。消えるんじゃない?」
「寂しい気持ちはありますね」
「…本当に君は肝が太いねえ、なんか昔やってた?」
「はは、照れますな」
「答えになってない」
俺はそう誤魔化しながら彼女との1日を思い返す。そうあの内見、あの事故物件と問い詰めた時から始まったのだ。
―――
「ね?言った通りでしょ?」
「ほんとだったとはね…」
彼女の死体は確かに新居の壁の中から見つかった。ボロボロの彼女を見て少し涙が出る。会って数分だがそれでも良い人なのは分かる。良い人が死ぬと悲しいのだ。
「こんなのあんまりですよ」
「優しいやつだねえ、だから漬け込まれるよ。こういうのにさ」
彼女は不動産屋の体を叩く。透明だから通り抜ける。既に冷たくなっている。死んでいる。そう、俺が殺したのだ。理由はシンプルである。
こいつが彼女を殺したからだ。
昔、彼女がこの部屋を内見してた際、こいつは彼女に乱暴を働こうとした。抵抗した彼女だったがそれが男は気に入らなかったのか逆上して殺害。そんな事をこいつは繰り返していたらしい。許せない。
「しかし君も凄いね。いきなり『事故物件なんでしょ?人を騙すなんて最悪だ。その上、この部屋には幽霊もいる。それも女性、あなたなんかしたんだろ』なんて相手が犯人じゃなかったら普通に侮辱罪とかになるよ。全然君は私の話を効かないじゃないか」
「まあ、怒りに任せてやってしまいました。田舎モンは感情的なんですよ」
「そうなの?まあ、私に考えがある。こいつが使ってたルートを利用しよう。内見で殺した場合、部屋の中に塗り込むなんてのは特別な事例さ。基本は近くにある死体処理スポットに埋めてたようだよ」
「ほーん、都会ってそういう場所があるんですね」
「田舎はどこに埋めてもバレないですからね」
「…嘘か迷う話だねぇ」
そんな彼女との会話をしながら俺は男の死体を運ぶ手段を考える。まずはこの男の死体をぐちゃぐちゃにしよう。そうしないと気が収まらない。その道具に関して近くにはスーパーとコンビニとホームセンターがある。そして、仕事終えたら銭湯で軽く汗と血を流そう。彼女が入れないのは残念である。
―――
そんな死体処理後の銭湯帰り、俺はあの部屋に戻ってくる。だいぶ片付いている。血も拭いた近くのホームセンターで買った壁修繕の道具できっちり壁の穴も埋めた。きっと不動産屋の連中がここに来るだろう。その前に消えないといけない。
俺は彼女の死体、まあ骨なのだが、を入れた骨壷を小脇に抱える。彼女が照れたような、どうしようもない奴を見るような顔で笑う。
「君も厄介な奴だよ。私なんかと一緒に暮らすのを選ぶなんてさ。私は君を利用したんだよ」
「それでも良いんです。あなたのことかなり好きですし」
「そうかい」
「それに…」
俺はあいつを埋葬してすっかり静かになった部屋の中で素敵な事を教えてくれた彼女に感謝しているのである。死体をどんな風に扱っても丁寧に埋葬すれば死者の声が消えるのだ。
両親に教えてやろうと思った。
新居の内見で家賃交渉したら最終的に美少女と住むことになった 床の下 @iikuni98
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