住宅を内見して購入を決めた話
野林緑里
第1話
結婚してから十年。
私たちはようやく一軒家を購入することを決めた。
二十歳でできちゃった結婚してしまった私達は子育ても社会人としてもはじめての状態だったから、ただ夢中でその日その日を過ごしてきた。
それでも家賃の安いボロアパートで夫と子供とそれなりに幸せに暮らしてきたのだ。
子供も小学生に上がり、生活にもゆとりが出てきた頃に私達のなかでボロアパートを出て家を買って住もうという話が持ち上がった。
そんなときに私達の住むアパートの目と鼻の先に新築住宅が建ち始めたものだった。だんだんと形になるのを見れば見るほどに住みたいという気持ちが湧いてくる。
その住宅はだれかが土地を購入して住もうと思って建てているものだろうと思ってきたから内心あきらめていた。だが、実際に建ってみると一向にだれかが引っ越してくる気配がない。やがてその家に「売家」という看板がたったのだ。それを見た瞬間、私達の心は決まった。
早速不動産へ連絡し内見することになったのだ。
内見するとなんともすばらしい!
システムキッキチンにたくさんの収納!
テラスもあるし、中庭も存在している。
玄関も広くて、玄関横には商品倉庫がありキッチンまでつながっている。
一階には和室があり、和が好きなおばあちゃんが泊まってもいいじゃないの!
トイレも各階にあり、2階には十畳と6畳の部屋が2つずつ。
あとは3畳ほどのウォークインクローゼット。
なんとすばらしい!
私達の理想通りのマイホームではないか!
私達は一気に気に入り早速契約を交わしたのはいうまでもない。
それから1週間後にはその新築住宅へと引っ越すことになる。
荷物はさほど多くはない。
だってボロアパートだもん。
そんなに荷物なんて入れられないわよ。
そういうわけでまた新たにいろんなものを購入して新築へ入れていった。
「やっとよ! やっと夢のマイホームが手に入ったのよ! もうテンションマックスよ」
引っ越してからしばらくしてママ友と食事にいったときに私は浮かれたように話をすると、ママ友たちは興味津々に話を聞いてくれた。
でもそのママ友の一人が妙なことを言い出したのだ。
「その家って元々だれかが暮らす予定で建てていたんでしょ」
「そうらしいわよ。でも建ってすぐに住むのやめたらしいわ」
「どうしてやめちゃったの?」
「うーん。そこまでは聞いていないわ」
「それは妙じゃないの? なんか怪しいわね」
すると別のママ友がいう。
「怪しいわね」
「怪しい」
そしたらほかのママ友まで言い出したのだ。
「いやあねえ。変なこと言わないでよ。そんな変なことじゃないわよ」
そういってみるも私もなんか気になりだした。
うーん。これは不動産に詳しく聞くべきかもしれない。
なにか訳ありだったら嫌だもん。
そういうわけでママ友との食事会を終えると早速不動産のもとへといってみた。
「実はですね。本当は住むつもりだったのですが、建て終わった頃にまたよい土地が見つかりましてそこに引っ越すことにしたそうです。だけど、もう建てたばかりだったのでどうしようかと考えたすえに家ごと売ることにしたそうです」
「そういうことなんですね」
私は納得した。
つうか、せっかく建てた家を住むことなく手放して新たな土地を購入するなんてどんなお金持ちなんだろうと思った。
住宅を内見して購入を決めた話 野林緑里 @gswolf0718
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