エルフは生きづらい
水瀬 由良
エルフは生きづらい
きっと長く住むことになるだろう。
だから、できるだけ頑丈で、できるだけ便利な方がいい。それから、災害は少ないほうがいい。全くないというわけにはいかないだろうけど、少ないにこしたことはない。
私が生きているわずか600年の間でも、火山が噴火したり、地震が起こって、地割れができたり、竜巻が生じて、ありとあらゆるものがなぎ倒されたりと大変だった。そういえば、津波も襲ってきていたか。
今日は、新しい家を見せてもらう日だ。
つい最近まで人が住んでいたそうだが、今は使ってないと聞いた。ただ、便利かと言えば、そうではない。近くの商店に行くのにも結構時間がかかる。
私の飛行魔法を使っても、そこまで1時間ぐらい。これでもエルフが住めるという条件では便利な方だ。
最近、エルフには貸さないという人が増えた。
家主さんの合い言葉に
「エルフに貸すな。貸せば一生返ってこない」
というのがあるらしい。
建物を借りる時に権利が発生して、自分で使いたいと思っても、借りている人が優先だから、借り賃の不払い以外には出て行かせることはできないという法ができている。借りている方にとってはありがたい法で、家主の都合に振り回されなくていいようになると思っていたが、貸す相手がエルフとなれば、家主にとっても大変だ。
この法があれば、借りた人は守られる。とはいえ、借りた人が死ねば、返ってくる。サイクルができる。
ところが、ご存じの通り、エルフは寿命が長い。
「エルフに貸すな。貸せば一生返ってこない」
全くその通りで、人の一生は短い。エルフは人のなん生分だって生きる。一生返ってこないというのは誇張でもなんでもなく、貸した人が死んでも返ってこない。
ただ、返ってこない時のために、家主にも手当はあって、賃料を増額できる。エルフにとって凄く厳しい法だ。
大体、エルフにとってお金は貯めるものではない。お金の価値が変動しすぎて訳が分からなくなる。だから、エルフは基本的に宵越しの金は持たない。その日暮らしが基本なのだ。
エルフにとって、お金の問題は切実なのである。
『借りれないなら、買えばいいじゃない』
なんていう声が聞こえてきそうだ。
これもその通りだ。昔からエルフは土地を所有して暮らしてきた。
しかし、これもついに対策がされた。人には人が死んで、子どもがその財産をもらう時に税金が課される。相続税というやつだ。
エルフは死なない。
エルフには相続という概念がない。だから、親の持っているもので欲しいものは贈与になる。
いい土地に住んでいたエルフもいたが、全く相続税がかからない状態に業を煮やした国が60年間で必ず相当の税金を払わなければならないという法にしたのだ。相続税を支払わないでいいというのは不公平だという話。
あわれ、その法によって大量の土地喪失者が出てしまった。
多数派が短命の人だからとはいえ、エルフには辛い現実だ。
そんなこんなでエルフが住める場所というのは結局、人が住みたがらない辺鄙な土地になる。
私が飛行魔法で、家に近づくと、仲介の人が先に待っていた。
中を案内してもらう。辺鄙なところにあるだけあって、家は広い。10年前まで人が住んでいたが、死んでしまって使う人がいなくなってしまったと説明があった。やっぱり最近まで人が住んでいたんだね。
築50年で新しいし、頑丈だろう。ちゃんと台所やお風呂もあるし、少し埃をかぶっているが、以前20年ほど旅に出た後に、家に帰った時に比べたら随分マシだ。
ちなみにその時の家は家賃が高くなってしまったので、移住することになったというわけだ。
うん、十分だ。ちょっと雨漏りがするとは聞いているが、そのくらいなら魔法で直せる。
私はすっかり新しい家が気に入った。
仲介の人にエルフカードを見せる。エルフカードは国で手続きをして、暮らしているエルフであることを証明するカードだ。どうせ、また変わるだろうけど、こうしたことはしないと、暮らせないからね。
そして、新しい家を購入する手続きをする。その日暮らしとはいえ、住宅ローンを組むことは出来る。
ここはエルフのいいところだ。死なないもん。
ただ、払ってもまた、そのうち別のところに行かないといけない。税金のためにローンは組めないから。
それにしても、住む場所一つにしても、借りることができなくなったり、長年住むとお金がかかったりとホントに世知辛い世の中になったものだ。
やっぱり、エルフは生きづらい。
エルフは生きづらい 水瀬 由良 @styraco
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