二章 ブラディ街道での再会

 ブラディ街道沿いには、村も町もない。その全長は、約千二百キャロン。

 無事に、通り抜けられるのだろうか。

 ぎよしやだいの横に座る、シャルの顔を盗み見る。

 れいな顔だ。こんなにゆうな姿の戦士妖精など、見たことがない。それが不安だ。

 果たして戦士妖精として、シャルは役に立つのか。

 ──買っちゃったからには、信じるしかないんだけど……。

 砂糖品評会は秋の終わり。半月後。ブラディかいどうを通り抜けるのに、あと九日はかかる。

 そうすると王都ルイストンに到着して品評会までの準備期間は、五日。ぎりぎりだ。

 翌日は日の出とともに、出発した。

 まだ街道の、ほんの入り口。道は遠いし、時間は限られている。

 アンはのあるかくてき安全なうちに、できるだけきよかせぎたかった。

 ときおり遠くのいわはだに、おおかみの群れらしき黒いものをかくにんすることはあった。しかしそれは山からけおりてくる様子はなかった。昼過ぎまでは、順調に道を進んだ。

 あと数時間すれば、にちぼつ

 二日目の寝場所と定めた宿しゆくさいには、ゆうを持って到着できる予定だった。

 そこに到着すれば、街道に入ってから二百キャロン。

 やっと、道程の六分の一程度、進んだことになる。

 静かで単調な景色の中を走り続けていると、ふいに、馬のいななきが聞こえた。それと同時に、鉄を打ち合うかんだかい音が、空気をき抜けるように耳に届いた。

 ぎょっとして、思わずづなを引く。ゆっくりと馬車がとまると、前方をかし見る。

 前方の街道上で、すなけむりが立っている。

 砂煙の中心にあるのは、真新しい箱形馬車だ。こちらに荷台の後部を見せているから、御者の姿は見えない。しかし剣をふり回す手だけが、荷台の向こうに確認できる。

 その馬車の周囲を、楽しげなせいをあげながら、ぐるぐると回っている人馬が十。身なりはまちまちだが、頭に布を巻いて顔をかくしている。とうぞくだ。旅人をおそっている。

「まずい!!」

 血の気が引く。盗賊の姿を見かけたら、逃げるが勝ちだ。先に襲われている者を、助けようとしてはならない。結果は目に見えているからだ。

 旅人たちはそれをルールと心得て、たがいをうらむことはしない。

 この場合アンは、宿砦に逃げ込むのが利口だ。しかし昨夜ゆうべまった宿砦は、はるか後方。

 身を隠せる場所はないか、道の左右を見回す。しかし周囲は、たけの長い草が生えるれ地が続くのみ。背の高い木立はない。馬車を隠せない。

 そうしているとすぐに、盗賊の輪の中の二騎が、動きを止めた。

 アンの馬車に気がついたらしく、馬首をこちらに向ける。

「やだ、来る!!」

 悲鳴をあげて、となりに座るシャルのそでを握る。そこでようやく、思い出す。

「あ、あなた!! そうだ、シャル!! あなた戦士妖精じゃない! 盗賊を追いはらって」

 たいそうに、シャルはアンを見る。

めんどうだな……」

「このままじゃ殺されるっ! お願い!!」

 するとシャルはアンの手首をつかみ、自分の袖から引き離した。逆にアンのうでをとると、彼女の体をぐっと引き寄せた。

「シャル!? な、なに?」

 シャルが顔を近づけて、すかすようにささやいた。

「お願いではなく、命令するべきだろう?」

 こんなじようきようなのに、のぞきこんでくるシャルのひとみと長いまつげに、視線が吸い寄せられる。しかも囁きの声が、なぜかむつごとのように甘い。

「ちょっ、近い!! ちょっと、シャル、近すぎ!! 離れて! とにかく、行って」

 ほおに血がのぼる。赤面している場合ではない。しかしどうようを隠せない。

「顔が赤い」

「ととと、と、とにかく、お願いだから」

おもしろいな」

 くすっと、馬鹿にしたようにシャルが笑う。これはちがいなく、新手のいやがらせだ。

「シャル! 行ってよ、お願い!」

「命令しろと言ってるんだ」

「命令って!? ほら、来るっ!」

「さっさと行け。羽を引きく。そう言えば、すぐに行く」

「なによそれ!? いいから、とにかく行って」

 動転していたし、妖精を使役することに慣れていない。そのためアンは、自分が彼の命とも言うべき羽を握っている事実が、頭から飛んでいた。

「命じろ」

 目をぎゅっと閉じて、シャルの綺麗な顔を見ないようにした。そして、

「行けってば! 行かなきゃ、なぐる!!」

 とりあえず、自分の中では最高に乱暴に命じてみた。

 その命令の言葉に、シャルはかたをすくめる。

「まあ、いいか……。行ってやる。おおせのままに、かかし殿どの

 アンの腕を放すと、シャルはふわりと、御者台から飛び降りた。

 シャルはゆっくり、こちらに駆けてくる人馬に向かって歩き出す。

 みぎてのひらを胸の前に軽く広げ、シャルは笑うように目を細める。彼の背にある一枚きりの羽が、わずかにふるえる。するとしおれていた羽が、ゆっくりと開く。陽の光を受け一部がにじいろに光る。

 そうしていると彼の掌に向かって、彼の周囲から、きらきらと光のつぶが集まりだしていた。

 光の粒はみるみるうちにぎようしゆくし、細長く形を作り、白銀にかがやけんの形になった。

 ──剣……!? そんな能力があるの!? ならシャルは本当に……。

 シャルは形になった剣を握る。それを下げ持つ。

 ──戦士ようせい

 いきなり、シャルは駆けだした。

 風よりも静かに、音もなく、身を低くして駆ける。

 あっという間に、盗賊たちの馬に駆け寄ったシャルは、二頭の馬の足にむけて剣をふるった。

 その一ふりで、同時に二頭の馬の前足をり飛ばした。どっと馬がたおれると、盗賊たちが地面にたたきつけられる。

 それを確認もせずに、シャルはさらに、入り乱れる人馬の方へ向けて駆けた。

 ほかの盗賊たちがシャルの存在に気がつき、視線を向けた。

 しゆんかん、彼は続けざまに馬の足を斬り飛ばす。同時に、五頭の馬が倒れる。

 残りの三頭をあやつる盗賊たちが、せいをあげてシャルに斬りかかってきた。

 ふりおろされる剣を、シャルは盗賊の腕ごと斬り飛ばした。盗賊の首領の顔色が変わる。

「引きあげろ!! 引きあげろ!!」

 首領はさけぶと、馬首をやますそへ向けた。地面にたたきつけられた盗賊たちが、転がるようにして後を追う。腕を飛ばされた男も、うめきながら必死の形相で馬を走らせた。

 砂煙が、風にさっとき流される。

 その場でもがく、足を斬られた七頭の馬と、地面にたたきつけられて死んだ盗賊の死体三つが、しんと静かな空気の中に現れる。

 シャルは軽く剣をふり、血を払い落とす。そしてゆっくりと移動すると、もがく馬の首に次々と剣を突き立てて、息の根を止めていく。

 アンの指先は冷えて、わずかに震えていた。

 シャルにとどめをされる馬を見ないように、視線をそらした。あんなひどいをした馬は、助からない。へたに苦しませるよりは、殺す方がぶかい。

 そうはわかっていても、正視できなかった。

 確かに、助けて欲しいと言ったのはアンだ。

 しかしあっという間に馬七頭と人間三人も殺してしまう結果になろうとは、思っていなかった。自分のひと言で、盗賊とはいえ人が三人も死んだ。

 自分の命令がこんな結果になることに、おどろきときようを感じていた。

 ──これが、戦士妖精というもの……。

 しばらくアンが動けずにいると、前方の箱形馬車の御者台から、御者が降りてきた。

 その御者の姿を認めて、アンは我が目を疑った。

「まさか、ジョナス!?」

 馬にとどめを刺すシャルを、ぼうぜんと見つめていたジョナスは、アンの声に顔をあげた。

「……え?……アン?」

 シャルはすべての馬にとどめを刺し終わると、手にした剣を下げ持った。剣はできあがったときと同様に、じよじよに光の粒になってさんした。

 アンは、ざんな馬や盗賊のがいをなるたけ見ないようにしながら、それらをよけて、急いで馬車を進めた。ジョナスの馬車と並ぶと、馬を止める。

 御者台から降りてジョナスに駆け寄った。

「どうしたの!? ジョナス」

「アン! 彼は、君が使えきしている戦士妖精!? じゃ、助けてくれたの、君だったの!? ああ! これも運命? とにかく、会えてよかった! 君は僕より半日早く出発したから、ずっと先まで行っていると思ってた」

 ジョナスは興奮しているらしく、アンの両手を、両手で包むようにしてにぎりしめた。

「わたしはレジントンに寄り道してたから……。って、そうじゃなくて。なんでジョナスが、こんなところにいるの?」

「君を追ってきた。君一人旅をさせるのは、危険だ。だから両親を説得して、馬車を準備して、追ってきた。僕は君といつしよに行くよ」

「なんで!?」

「なんでって。理由は一つしかないよ。僕の気持ち、知ってるだろう」

 その言葉に、ぽかんとした。

「え?」

「僕は、君が好きだ。君と一緒に行きたい」

「えっと……ジョナス。……すごくうれしいんだけど……」

 アンは握られていた両手を、そっと引きくようにはなす。

「けど、多分ジョナスは、自分の気持ちについて、とんでもないかんちがいをしてるんだと思う。どう考えても、ジョナスがわたしを好きになるはずないもの。そんな要素が、これっぽっちもない。ジョナスはわたしに対する同情を、愛情と勘違いしてるんだと思う」

 アンはごくへいぼんな容姿で、ついでにあいきようをふりまくタイプでもない。

 自分で言うのもなんだが、女の子としてのりよくにはとぼしい。

 実際半年間ジョナスとアンは身近にいたのだが、友達よりもよそよそしい関係のままだった。

 そんなみようきよかんのあるアンに、ジョナスはきゆうこんした。

 理由は、母親をくしたアンへの同情以外に、考えられない。

 ジョナスはアンに同情するあまり、同情とれんじようの区別がごちゃごちゃになって、アンをものすごく好きになったと勘違いしているのではないだろうか。

「同情じゃない。僕はアンが好きだよ。ねぇ、アンはルイストンの砂糖品評会に参加するんだろう? そう言っていたよね。だったら僕も一緒に行くよ。君が銀砂糖師になれるように、僕が君を守り、協力する」

「待ってよ。たった今とうぞくおそわれといて、守るもへったくれもないでしょう!? それにジョナスは砂糖菓子店の大事なあと息子むすこじゃない。ラドクリフこうぼう派の、おさになる可能性だってあるんでしょう!? そんな人をこんな危険な旅に同行させて、怪我でもさせたら。お世話になったアンダーさんに、顔向けできない」

「盗賊は、まあ。ちょっと油断したけれどね。僕も男だからだいじよう

「大丈夫のこんきよが、まったくわからないんだけど!?」

「大丈夫。大丈夫。剣も持ってるし」

「ねぇ、人の話、聞いてる?」

「それに父さんも母さんも、僕がアンと一緒に、ルイストンへ行くことなつとくしてるし」

「アンダーさんたちが納得? そんなはずないわ。とにかく、引き返して」

「もう引き返せない。引き返すのも進むのと同じくらい、危ないはずだよ」

 熱心なジョナスの様子が、熱にかされた者のようにうわずっていた。

 これは本格的に、同情を恋情と勘違いしているにちがいない。

 勘違いのこいごころでジョナスを死なせてしまったら、めが悪いことこの上ない。

「だめよ。絶対、引き返すの」

「アン。冷たいこと言わないでよ、ね」

 ジョナスは笑うと、再びアンの手を握った。

 驚いて手を引こうとしたが、その手をしっかりととらえられる。

「僕は君のために来た。君は、僕がきらい? 喜んでくれないの?」

 見つめられると、まどう。村の女の子たちが夢中になる、やさしいがお

「嫌いなわけじゃないのよ。けど、けどね。なんというかぁ、そんな問題じゃなくて……」

 シャルは二人のやりとりに口を出す気はなさそうで、ずっと馬車の荷台に寄りかかり空を見あげていた。しかしふいにまゆをひそめると、荷台から背を離した。

「かかし。早くこの場所を離れろ。血のにおいをぎつけて、おおかみが来る。上を見ろ」

 アンとジョナスは、空を見あげた。黒い鳥のかげが三羽、彼らの頭上をせんかいしている。

こうカラス。れ地のそう屋だ。あいつらが現れたら、すぐに狼が来る」

 アンはばやうなずいた。力がゆるんだジョナスの手から、自分の手を引き抜く。

「わかったわ。すぐに出発する。ジョナスは、お願い。ここから引き返して」

「いや。僕は行く」

「ねぇ、ジョナス。あなたが死んだらご両親が泣くし、村の女の子たちだっていっぱい泣くわ。あなたがいなくなったら、店はだれぐの? あなたには大切なものが、たくさんあるじゃない。それを守るべきなのよ」

 心をくして、アンは言った。しかしジョナスは、まっすぐにアンを見つめ返す。

「君がだめだと言っても、僕は行くよ。両親は、関係ない。店も、今の僕には関係ない。僕は今、君への気持ちだけが大切だ」

 ジョナスには温かい家がある。両親がいて、将来は跡を継ぐべき店もある。両手に大切なものをたくさんかかえている。アンのように、死んで泣いてくれる人が一人もいない、からっぽの身ではない。彼は、アンのような危険をおかす必要のない人間だ。

 それなのに。自分の持っているものの大切さを、理解しようとしない。

 そのジョナスのごうじようさに、ほとほと困り果てた。

「とにかく、ジョナスは危険な真似まねをするべき人じゃないのよ」

 アンは背を向けると、さっと御者台に乗った。

 シャルはすでに御者台に座っていた。困り顔で馬にむちを当てるアンの横顔を見て、シャルがにやりと笑う。

「追ってくる男がいるのか。子供にしては、やるな」

「子供じゃない! わたしは十五歳。成人よ! それにジョナスは、そんな相手じゃないの。ただわたしに、同情してるだけ。そんな同情心で、危険を冒そうとするなんて」

 と言いながらも、アンは背後を気にしていた。

 ジョナスは自分の馬車に乗ると、ゆっくりと歩を進めて、アンたちの後ろをついてくる。村に帰るつもりはないらしい。

 そもそもここまでかいどうを来てしまったからには、ジョナスも言うように、引き返すのも進むのと同様に危険だった。

「どうすればいいのよ、わたしは……」

 アンはつぶやいて、続けてぽつりとシャルに告げた。

「後ろの馬車。とりあえずなにかあったら、助けに行ってくれる?」

 ジョナスは、嫌いでない。逆にあの優しい笑顔や態度は好ましい。それに恋情と勘違いしてしまうほど他人に同情する彼を、いい人だと思う。

 見放せるわけはなかった。

「俺になにかをさせたいなら、羽をたてにして命じろ」

「さっきも、命令しろ命令しろって、うるさく言ってたわよね。なんでよ」

「命じられたこと以外、やるつもりはない」

 要するに彼は、「この命令に従わなければ、おまえの命を取る」と、おどさない限り動かないと言っているのだ。逆を言うと、そこまで必死の命令にしか、従わないということだ。

「ちょっと馬を見ていて」とか、「そこの毛布を取って」なんていう軽々しい命令には、断固として従わないつもりだ。

 アンとて、毛布を取ってもらうためだけに、「殺すぞっ!」と脅すのはめんどうだ。

 あつかいにくいものだと、ため息をつく。

「わたしは昨日の夜に、シャルを使役しようってかくした。けど根本的に、そんなえげつない命令のやりかたは、したくない。だからこれは、お願い。これからもとりあえず、お願いする。でもいやだって言われたら、命令に変える。お望み通り『羽を引きかれたくなきゃ、わたしの言うとおりにしなさい』って言ってあげる。その覚悟よ。けどわたしは、まずお願いする」

 その言葉を聞いて、シャルはまじまじとアンを見つめる。

「本当に、みようなかかし頭だ」

「シャル、あなた、さっきからどさくさにまぎれて、かかしって言ってるよね。……もういいけどさ。……かかしで」

 ジョナスの身になにかあれば、どうすればいいのか。それを考えると頭が痛くなりそうだったので、シャルのかかし発言にはんげきする気力はなかった。



 アンは馬車を止めた。するとジョナスがとなりに馬車を並べ、止まった。

 二人が見あげるのは、旅の二日目、アンが寝場所に決めた宿しゆくさいだった。

「これが宿砦か。僕は今夜、はじめて使うよ」

「宿砦にまるのが、はじめて? じゃあ昨日の夜は、どうしたの?」

「実は今日の昼までは、護衛がいたんだ。ノックスベリー村のはずれで、あらっぽい仕事をしている男がいて、そいつに護衛をたのんだ。だから昨日の夜は、道のわきに馬車を止めて荷台の中で寝た。護衛が一晩守ってくれたけど」

「けど?」

「僕が荷台のどこにお金をかくしてるか、見られちゃったみたいで。今日の昼前に僕にけんきつけて、お金を取ってげていったよ」

 そう言ったジョナスは、わりにけろりとしている。度胸がいいのか、脳天気なのか。

 アンはがくりとかたを落とした。

「気の毒だったけれど……それはガードが、甘すぎない?」

「まあ、そうだね。でも結果良ければ、すべて良しだよ。命は助かったしね。そのおかげで、アンにめぐり合えたんだし」

 旅に対する危機感は、まるでないらしい。

 いつしよについてくるつもりならば、危機感を持ってもらわなければ困るのに。

「ジョナス。今夜ここに泊まったら、明日、引き返してね」

「僕は自分の行きたいところに、行ってるんだよ。君に、ついて来てるわけじゃないから」

「あ~の~ね~。ジョナス」

「さ、行こう」

 ジョナスはウインクすると、馬に鞭を当てた。アンは額をおさえた。

「ああ……頭が痛い……」

 二台の馬車を宿砦の中に乗り入れ、門のてつを閉めた。

 宿砦にはいると、ジョナスはえんりよするようにかべぎわに馬車を寄せた。そしてすぐに、箱形の荷台の中に入ってしまった。その中でねむるつもりらしい。アンの馬車に近寄らないのは、アンにくっついてきているのではないという、彼なりの主張だろう。

 アンは馬車の脇で、火をいた。そしてなべに水とかんそう肉と野菜の切れはしを入れ、簡単なスープを作った。できあがると、ジョナスの馬車をちらりと見る。

 秋とはいえ、夜になると気温は下がる。温かいものを、アンたちだけ食べるのも気が引けた。

 木のわんにスープを入れると、ジョナスの馬車の荷台に近寄った。

 荷台背後にある両開きのとびらを、軽くたたく。

「ジョナス。わたしよ。開けて」

 中でなにやらごそごそと音がして、ほどなく扉が開いた。

「なにかようでしょうか?」

 扉を開いたのは、てのひらくらいの大きさの、ようせいの少女だった。一枚だけの羽をけんめいに動かして、扉の取っ手にすがりついている。

 妖精の少女は、アンダー家で使えきされていた労働妖精のキャシーだ。燃えるような赤毛だ。つんと上を向いた鼻をさらに上に向け、りぎみの大きな目がアンをにらむ。

「キャシー!? あなた、ジョナスに連れてこられてたの?」

「わたしはもともと、ジョナス様専用の労働妖精ですもの。当然です」

「そうなの? で、そのジョナスは?」

「お休みになっていらっしゃいます」

「じゃあこのスープだけわたしておく。目が覚めたら食べてって、伝えてくれる?」

 アンが差しだした椀を見て、キャシーは口の端で笑った。

「こんなまつなもの。ジョナス様はおそらく、口になさいませんよ」

 それは高貴な者に仕える使用人が、主人のこうをかさにきて、他人を見下す態度にそっくりだった。アンはまゆをひそめる。

「おうちじゃそうかもしれないけど、旅では、こんなものでもありがたいの」

 キャシーはいやそうな顔をしたが、ふわりとゆかに降りると、両手を差しだした。

 片羽を取られた妖精は、飛べない。空中にとどまることも無理なのだから、キャシーは床に降りて椀を受け取るしかない。

 アンはかがみ込んで、椀を渡す。

 キャシーにとって椀は、たらいのような大きさだ。抱え込んで、顔をゆがめる。

けものあぶらくさい。妖精のわたしでも、いやだわ」

「あ~そ~。ごめんね。いらないおせつかいで!」

 アンはぷんぷんしながら火のそばに帰ると、乱暴に鍋の中をかき回した。

 シャルはほのおを見つめながら、ぼんやりと座っていた。

 椀を手に取り、シャルの分のスープをいだ。そしてその椀を、無言でシャルに突き出した。

 目の前のスープをまじまじ見つめて、シャルは不思議そうにアンの顔を見る。

「これは……? どうしろと?」

 アンはキッと、シャルを睨む。

「わたしが『お口をあ~ん』して、シャルの手でスープを食べさせてもらいたいから、これを渡すんだと思う!? シャルが食べる分に、決まってるでしょう!? こんなもの渡そうとして、悪かった!? あなたも、獣の脂くさいびんぼうスープなんてお口に合わない!?」

 とつぜんつっかかってきたアンに、シャルがおどろいたような顔をした。

「いきなり、なんだ? 頭に火でもついたみたいだ」

「どうせかかし頭ですから! よく燃えるでしょう!」

 シャルはこらえきれなくなったように、少しだけ笑った。そしてやわらかい表情で、差し出された椀に手をばす。

「大火事らしい」

「火もつくわよ。こんな貧乏スープは、砂糖店のあと息子むすこ様のお口には合いませんって、妖精に言われたわ。あなたも、こんな貧乏スープはいや!?」

「スープがいやだったわけじゃない。ただ……驚いた」

 シャルはスープを受け取ると、両手で椀を包みこむようにする。

「驚いた? なにに? もしかして、あまりにも、まずそうだったとか……」

「自分より先に、俺にスープをあたえたのに、驚いた」

「どうして? きゆうしている人間が、自分以外の人に先にスープを渡すのは、当然でしょう? マナーよ、マナー。はい、スプーン」

 スープをすくうためのスプーンを渡そうとしたが、シャルの手の中にある椀が、すでに半分の量にまで減っていることに気がついた。

「シャル、あなた口つけてないよね。もしかして、お椀に穴が空いてる?」

「食べた」

「食べた!? どうやって!?」

「俺たちは、口から食べない。手をかざしたり、れたりして、吸収する」

 シャルの手にある椀を見ていると、スープの液面がわずかにゆらゆらとれながら、じよじよにかさを減らしている。それは急速に蒸発しているように見える。

「味、するの?」

 その様子をまじまじ見つめて、思わず、アンはいた。

「しない。食べ物を食べても、味は感じない」

「妖精って、そうなの!? そんなの、何食べても楽しくないじゃない。ぜんぜん、どんなものも味を感じないの?」

「一つだけ。味を感じるものはある」

「なに?」

「銀砂糖だ。……甘い」

 なにかを思い出したように、シャルは目をせた。その表情がひどくさみしげだった。なにかつらい思い出でもあるのだろう。

 この口の悪い妖精は、市場に売り出されるまでの間、どんなことを体験したのだろうか。

 想像すると、心が痛んだ。

 自然の中で生まれ、気ままに暮らしていたのに、突然追い立てられられ、そして売られる。どんな気持ちがするだろうか。アンだったら、うらみでり固まってしまいそうだ。

「銀砂糖は好き? きらい?」

「嫌いじゃない」

「じゃあ、砂糖菓子作ってあげる。わたし、砂糖菓子職人の端くれなのよ」

「おまえが?」

 シャルはさんくさそうに、横目でアンを見やる。アンはちょっと胸を張った。

「聞いて驚きなさいよ。わたしのママは銀砂糖師なの。むすめのわたしは、よちよち歩きの時から、銀砂糖をねんがわりにして遊んだんだから。自分で言うのもなんだけど、うではかなりのもんよ。シャルに似合う、月光草の形を作ろうか」

 味のない食事なんて、楽しいはずはない。そう思うと、作ってあげたくなった。

 もしシャルが恨みで凝り固まっているとしたら、優しい甘みの砂糖菓子は、少しなりとも彼の心をやわらかくしてあげられるかもしれない。

 まどいが、シャルの顔にかぶ。困ったようなその表情が、少し可愛かわいく思えた。

 アンは微笑ほほえんで立ちあがり、自分の馬車の後ろに回った。そして後方の、両開きの扉に手をかけたしゆんかんだった。

 どかん! と、馬車の中で、なにかがはずしようげきひびき、車体が大きく揺れた。

 とつに飛び退いたアンは、悲鳴をあげた。

「シャル!」

 シャルのかたわらに飛んで帰り、彼のそでつかむ。

「な、なにか、荷台の中にいるみたい! 見て。見てよ、お願い」

 するとシャルは、ちろりとアンを見る。

「命令か?」

「め、命令?」

「見に行かなければ、俺の羽を引きくか?」

「そんなこと思ってないけど、でも」

「じゃあ、自分でやれ」

「あああ、あなたって!!」

「羽を引き裂く」とおどすえげつなさがいやで、アンは容易に命令ができない。

 シャルはアンのそんな思考もかして、「命じろ」と言っている。鹿にしたような表情からも、それは明らかだ。とことん、なまける気だ。

 いつしゆんでも彼を可愛いと思った自分が、馬鹿だった。

 アンはかっと頭に来たが、そのいかりのおかげできようしんが目減りした。

「いいわ! 見てやろうじゃない!」

 アンとて母親と二人、だてに十五年も王国中を旅していたわけではない。

 そんじょそこらの十五歳の娘よりは、度胸があるつもりだ。

 たき火用の棒きれをとりあげると、荷台のとびらの前に立った。

 棒きれを片手で構える。そっと扉を開く。

 荷台の中は、静かだった。

 箱形の荷台の中は、人が立ち歩けるほどてんじようが高い。かべの両側面、天井に近い場所に、横長の明かり取りの窓がある。今夜は月が明るかったので、明かり取りの窓から月光がしこみ、荷台の中をうすぼんやりと照らしていた。

 壁の一方に取りつけられた作業台の上には、砂糖菓子を練りあげるための石板や、木べらや、はかり。様々な植物からちゆうしゆつした色粉のびんなどが、整然と並んでいる。

 逆側の壁沿いには、たるが五つ並べられている。

 いつもと変わらない荷台の中だった。

「なにも……ない?」

 おそるおそる、荷台の中に首をっ込み中をのぞいた。その瞬間。

「おい、おまえ!!」

 キンとした声とともに、小さなかげが、作業台の下からぴょんと飛び出してきた。

「きゃあああああああああああああ!!」

 アンは悲鳴をあげながらも、棒きれを思い切りふりいた。

 こちらにまっすぐ飛んできた影に、見事にヒットした。

 ふり抜かれた勢いで、影はそのまま荷台の外へ飛び、火の近くに座っていたシャルの後ろ頭にげきとつした。

 いきなり背後からおそわれたシャルは、まなじりをつりあげてふり向いた。

 激突した後、シャルの背後にぼとりと落ちた小さな影を、彼はわしづかみにする。

「これは、いやがらせか!?」

 アンに向かってるが、アンも混乱して怒鳴り返す。

「知らないわよ!! それが荷台の中にいたのよ」

「これが……?」

 シャルは自分が摑んでいるものに、視線を向けた。そしてまゆをひそめる。

「放せよぉ、このろう!! 俺様をだれだと思ってる!」

 かんだかい声で、その小さな影はこうした。

 首根っこを摑まれてじたばた暴れているのは、ぎんぱつで、可愛らしい少年の姿をしているようせいだ。背に羽は一枚きり。もう一枚の羽はみようなことに、スカーフのように自分の首に巻いている。

「放せぇ!」

「うるさい」

 シャルがぱっと手をはなした。小さな妖精は地面についらくして、ギャッと悲鳴をあげた。

「ちぇっ。乱暴なやつ。俺はデリケートなんだ、もっとやさしくあつかえよ」

 こしをさすりさすり立ちあがる。

 アンはおそる恐る近づいて、ひざまずくと妖精を覗きこむ。

 妖精は、青いひとみのまん丸な目でアンを見あげた。

「あなたが、荷台の中で暴れたのね」

「暴れたわけじゃないぞ。うたたしてたら、せんさいな俺は悪夢を見ちゃって、飛び起きたんだ。飛び起きすぎて、天井にぶつかっちゃっただけだい」

「はぁ……すごい飛び起きかただね……。それにしても、あなた誰? いつ、なんでわたしの馬車に入りこんだの」

「俺は、ミスリル・リッド・ポッド。おまえに恩返しをしに来た」

「恩返し?」

「昨日。おまえは俺を助けた。だから俺は、義理を果たしにきたってわけだ」

 そう言われて、アンはやっと気がついた。

「あっ! あなた! レジントンで妖精かりゆうどがいじめてた、あの子?」

 あの時はどろまみれで、顔かたちがわからなかった。しかしよくよく思い出せば、そのキンキン声には聞き覚えがある。

 妖精が首に巻いている羽は、アンが妖精狩人から取りもどしたものにちがいない。

「そうさ。俺はレジントンの町でおまえの馬車を見つけて、もぐりこんだんだ。それもこれも、恩返しするためだ。すぐにでも、恩返しをしようと思ったんだけどな。俺はあの馬鹿にこき使われて、つかれきってたから。ついつい寝込んじゃって。今まで寝てた。でも、そのおかげで元気になった! これから俺は、おまえにガンガン恩返しをする」

「でもあの時、人間に礼なんか言わないって、言ってなかったっけ?」

「言った。けどおまえに助けられたのは、事実だ。俺は、人間みたいな不人情な生き物にはなりたくないから、いやいやながらも恩返しする。言っとくが、恩は返すが、死んでも礼は言わないぞ。いいなっ!」

 小さな人差し指を、びしりとアンに突きつける。指を突きつけられたアンは、こんわくした。

「えっと……。なんていうか。恩返しを期待して助けたわけじゃないから、恩返しなんかいいわよ。しかも嫌々ながらとか、死んでも礼は言わないとか。感謝されてんだか、されてないんだか、よくわかんないし……」

「こいつを助けた? おせつかい焼きだな、かかし」

 シャルはあきれたように言った。

「だって見殺しにするなんて、出来ないじゃない。えっと、あなた、ミスリルだったっけ?」

「俺はミスリル・リッド・ポッドだ。略すな!」

「あっ、ご、ごめん。ミスリル・リッド・ポッド。とにかく、恩返しは必要ないから」

「そうはいくか。恩を返させろ!」

 あまりの尊大さに、アンはどっとろうを感じる。

「わたし、今まで妖精とほとんどせつしよくしたことなかったから……。妖精って、もっとけなげで、いじらしいのだと思ってたけど。全然違うじゃない。あなたにしろシャルにしろ、キャシーにしろ。なんでこう、えらそうなわけ?」

「さあ、恩を返させろよ!」

「でも、本当にそんな必要ないし」

「必要ない? ふざけるな! 俺はごくの底までついて行っても、恩は返させてもらう」

「地獄ってなに!? なんかこわい! 恩返しかふくしゆうか、わけわかんない! なんでわたしがおどかされなきゃならないの!?」

「とにかく、恩返しさせろ。恩返しするまで、つきまとってやる」

「わかった! わかったから!! じゃあ、恩返しをお願いする! え~と、え~と」

 アンはぐるりと周囲を見回して、ぽんと手を打った。

「そうだ! それじゃ恩返しに、馬車のしやじくに油を差してくれる?」

「馬鹿にするな! 命を助けられた恩返しに、そんなショボいことをさせる気か!? もっとすごい恩返しを考えろ!!」

「すごい恩返しって……なに」

 頭をかかえたアンに、ひんやりした表情でシャルが問う。

だまらせるために、くびり殺すか? おまえが命じれば、やるぞ」

 あまりにもミスリルがうるさいので、シャルは本気とも冗談ともつかない冷めた口調だ。

 それを聞いて、ミスリルがもうはんげきする。

「おまえ!! 同じ妖精のくせになんてこと言うんだ。ふん。おまえ、黒曜石か。俺がすいてきだからって、馬鹿にしてるのか? おいおい、人間のむすめ

「アンよ」

「アン。おまえが使えきしているこいつは、妖精殺しだ。妖精狩人にやったみたいに、こいつに一発おいしてやれっ!」

「て……なんで命令してるの? あなたが」

「だから、くびり殺そう」

 妙にきっぱりと提案したシャルに、アンはうめく。

「せっかく助けたのに、馬鹿なこと言わないでよ。とにかく、ね。あなたは自由なんだから、好きなところに行って、幸せに暮らしてほしいんだけど」

「好きなところへ行けだと!? 俺を追いはらう気か!? いかないからな、俺は!」

「そういう意味じゃないんだけど……。……なんか、疲れた……。わたし、もう寝たい……」

 わめくミスリルとの会話は、延々と平行線をたどりそうだった。

 アンはぐったりして、ミスリルに背を向けてたくをすると、毛布にくるまった。

「シャルごめん。砂糖は、明日の夜にでも作る。待たせるおびに、とびきりれいに作るから。砂糖菓子を食べたかったら、わたしが寝込んでるからって、羽をぬすまないでね」

 シャルが砂糖菓子でつられるかどうかは別として、そんなもので予防線を張るのは、なんだか情けない気がした。

 しかし実際問題。彼に羽を取り戻され、いなくなられては困るのだから仕方ない。

る盗らないの前に……、ねむれないと思うぞ」

 シャルはゆううつそうにつぶやいた。

「おい、おまえら!! おい、寝るな、寝るな──!!」

 耳に突きさるミスリルの声に、アンは両手で耳をふさいだ。

「もしかして今夜、寝かしてもらえないのかなぁ~……」

 自分の善行を、つくづくやんだ。


    ◆ ◇ ◆


「やいやいやい! おまえまで寝るな!! 仲間だろうが」

「おまえみたいにうるさい仲間なら、いらない」

 ね回るミスリル・リッド・ポッドにうんざりし、シャルはため息混じりに横になった。

「ななな、なんだと!? なんだと──!?」

「恩返し? おまえは鹿か。相手は人間だ。羽を取られたときの痛みを忘れたか」

 羽は妖精の体の中で、最もびんかんな場所だ。それをむしり取られたときの痛みは、手足を引きかれたのと同様の痛みだ。

 その痛みをあたえられただけでも、人間という生き物をにくむにはじゆうぶんだ。

 しかしミスリルは、へんと鼻を鳴らす。

「なに言ってやがる、痛い思いを忘れるもんか。だから俺は、人間に礼なんか死んでもいわないぞ。けど俺の羽を取ったのは、アンじゃない。アンは俺の羽を、取り戻してくれたんだ。人間でもようせいでも、悪い奴は悪い。いい奴はいいんだ。だから俺は、いい奴には恩返しをする。だからアンにも恩返しするんだ! 恩返しさせろさせろさせろ!」

 なにやらくつせつした思いはあるらしいが、とにかくアンに、心から感謝しているのはわかる。

 しかしなにしろ、そうぞうしい。

「うるさい!」

 手をあげて、飛びあがったしゆんかんのミスリルを、ぱしりとたたき落とした。

 ギャッと悲鳴をあげて墜落したミスリルは、今度はまゆをつりあげ、さらに興奮してぴょんぴょんシャルの頭の周りを跳ねる。

「暴力反対!! この妖精殺し! 仲間殺しー!!」

 片羽を取られた妖精は飛べなくなる。しかし残った羽の羽ばたきとちようやくの力で、人間の頭くらいは軽々飛びえる。

 ミスリルはその跳躍力を生かして、ざわりに、跳ね回ってくれる。

 騒々しさが増したので、これ以上手を出さないほうがけんめいだとさとる。

 横になって耳をふさぐアンは、めいわくそうにぎゅっとまゆをよせている。

 アンはこの妖精、ミスリル・リッド・ポッドを助けたらしい。

 呆れるほど甘いむすめだ。彼女は、シャルに対しても甘い。

 アンは自分よりも先に、シャルにスープをきゆうした。さらに、砂糖菓子を作ってやろうとまで言った。まるで人間に対するように接してくる。

 そのうえアンは、シャルに対して厳然とした命令を下さない。彼女の命令は、お願いの域を出ない。彼女が羽を傷つけたくないと思っているのが、ありありとわかってしまう。シャルを使役するという、決然とした意志が感じられない。

 命じられるのと、お願いされるのは違う。

 だから正直、まどう。従うべきか、無視するべきか。

 命じられてもいないのに、従うのはごうはらだ。しかしアンは、シャルの羽を持っている。アンがきゆうにおちいり、シャルの羽にがいがおよんでも困る。

 迷ったすえ、とうぞくは追い払ってやった。

 けして、アンの命令に従ったわけではなかった。従うには、彼女は甘すぎる。

 なぜアンはこれほど、甘いのか。もしかして、さびしいのだろうか。夢の中で母親を求めていた娘だ。一人旅が、寂しくないわけはない。だから妖精たちに対してさえ、甘い顔をするのだろうか。自分のどくやしてくれる相手を、無意識に求めているのだろうか。

 今夜はミスリルも喚いているし、アンから羽を盗むチャンスはなさそうだ。

 ──まあ、かまわない。

 命じられることがほとんど無いのだから、気楽だ。おろおろするアンを見て、笑っていればいいだけなのだ。ほんとうに、甘い小娘。

 ──かかしの作る砂糖菓子は、さぞ甘いだろう。

 ふと、そんなことを思う。

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