少年達、7500ドルの別荘は大人にとっては格安なのだよ(笑)

明石竜 

第1話

「7500ドルも支払ったのに。これはひどいよ」

 とあるRPGの主人公である、野球帽がトレードマークの少年は、

故郷の街の西の岬に佇む別荘を購入後、内見した瞬間がっかり気分に

陥った。

 冒険でたくさんの敵と戦い、時には致命的なダメージを食らわされ

気絶させられたりしながらも、苦労してコツコツと貯めて来たお金

だったことも相まって、悲しみはひとしおだった。

「本当、酷いわ。ぼろすぎ。海側の壁がないじゃない。床に穴も開いてるし、

壁にひびが入ってるし。あのぼったくりのおっさん、フライパンで

ぶん殴りたいわ」

 冒険仲間の金髪でリボンが可愛らしい少女も怒り心頭だ。

「外観は普通なのにね。買う前に内見させてもらえなかったのは、

そういうことだったんだね」

 もう一人の仲間、坊ちゃん刈りで眼鏡の少年は呆れ気味に呟く。 

「嵐が来たら雨風しのげないどころか、別荘ごと吹っ飛びそうだけど、

ムの修業の場としては最適な物件かもしれないな」

 さらにもう一人、仲間になったばかりの武道家で辮髪の少年が

そう呟いた直後、

 シルクハットのお爺さんがくるくる回りながら、穴の開いた天井

から舞い降りて来て、ボロボロなソファーの前に降り立った。

「きみたち、悪い大人に騙されてがっかりしてるようじゃな。じゃが、

きみたちが無事に冒険を終えて、エンディングを迎える時に流れる

アルバム写真をコンプリートするには、この別荘は購入必須なのじゃよ。

きみたちはいい買い物をしたと思うよ。はいチーズ。サンドイッチ!」

 パシャ♪

 4人揃って写真に収まる。

 自称天才写真家のお爺さんの計らいに、主人公の少年は思わず

ピースサイン。

「ではまたどこかで」

 写真家のお爺さんはそう告げて、くるくる回りながら上空へ

舞い上がりどこかへ消えていった。


「写真屋のジジイには和んだけど、やっぱむかつくわ。あのおっさん」

 少年少女達は別荘から外へ出て、付近にいた売り主のおっさんに抗議。

「ちゃんとした家なら、こんなに安く売れるわけないでしょ。7500

ドルって、きみたち子どもにとっては大金なんだろうけど、大人にとっては

格安のお値段なのだよ。フッフッフ」

 売り主のおっさんは悪気もなく嘲笑う。

「このクソオヤジ」

 フライパンで殴りかかろうとした少女、

「まあまあ、落ち着いて」

 辮髪の少年がなだめる。

「わたしを殴ってもいいんだよ、お嬢ちゃん。まあ、そんなことをしたら

お巡りさんに捕まっちゃうけどね。この間不法侵入したそこの少年みたいに」

 売り主のおっさんは余裕の心持ちで高笑い。

「ますますムカついてきたわ」

 少女、ぷっくりふくれる。

「こんな別荘なんか買わずに、ダイヤのうでわ買えばよかったよ」

 主人公の少年はより一層悲し気な気分に。

「けど、写真を撮ってもらえたんだし、大人になる頃にはきっと

いい思い出になるよ」

 眼鏡の少年は、そう言って勇気づけた。


 ともあれ、この4人はテレポートで高級リゾート地に戻り、次の目的地へ

向かうことに。

「ちょっと、なんで攻撃やめちゃうのよ! あの暴走タクシーあんたが

攻撃してたら倒せるとこだったのに排気ガス巻き散らかされちゃった

じゃない。涙が止まらないわぁ~」

「ぼく、急にママに会いたくなっちゃって、戦う気になれないんだ」

「またホームシック? ちょっと前になったばっかじゃない。情けなぁい。そんな意気地なしだから次のシリーズでもっと勇敢な主人公にしようと思ったのか序盤からお母さんが恐竜に殺される展開になっちゃうのよ」

 少女は呆れ気味に言う。

「だって、ただでさえあの無駄遣いで後悔してブルーな気分に

なってたんだもん。あの教団の人じゃないけど」

「そんなに冒険が嫌ならさっさとママの所にでも帰りなさい。あんたが

いなくてもこのがり勉眼鏡君だけが扱える武器でほとんどのボス一発で

倒せるみたいだし、ラスボスだって私だけで攻略出来るみたいだし」

「そんなぁ、ぼくを置いてかないでぇ~」

 道中いろいろありながらも、4人の少年少女達は世界を救うため

冒険を続けていくのであった。

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少年達、7500ドルの別荘は大人にとっては格安なのだよ(笑) 明石竜  @Akashiryu

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