いい物件ありますよ?
さいとう みさき
第一話:憧れの東京暮らしだ!
僕はこの春、東京の大学に合格して、上京が決まった。
「えっと、次の物件はかなりおすすめなんですよ!」
「あ、お願いします」
叔父のつてで紹介された不動産屋さんは、かなり親切だった。
東京と言ってもここは八王子。
西を見れば高尾山とかの山々が見える。
でもここは憧れの東京だ。
学生寮に入るという手もあったが、彼女とか出来たら部屋に呼べないよね?
そんな夢のようなキャンパスライフを想像すると、思わず顔がにやけてしまう。
「ここは築三年目の物件で、ちょっと部屋数は多いですが学生向けに作られているのでいいですよ。管理人さんも一階の玄関のすぐ隣に部屋があるので、安全面でもバッチシですよ」
「へぇ、管理人さんも同じ建屋にいるんですか……」
どんなアパートかと思って来たら、奥行きがかなりありそうな物件だった。
かなりと言うのは、玄関が共有で真ん中の廊下の左右に個々の部屋があるという、ちょっと学生寮っぽい物だった。
奥の方は良く見えない程遠いが、とりあえず空室と言う玄関から三番目の部屋を内見で見せてもらう。
「へぇ~、玄関が共用だったので学生寮みたいなものと思ってましたが、結構いい部屋ですね。ロフトもあるし、トイレやお風呂もちゃんとついている。あ、ベランダも快適みたいだ」
何と、こんな形のアパートだったけど、入ってすぐは台所やトイレ、ふろ場の約四畳半。
その奥の扉を開くとロフト付きの六畳一間で、ベランダが隣接してあった。
これで何と月々五万円しない四万七千円というのだから驚きだ。
予算的に厳しい僕にはなかなか魅力のある部屋だ。
「まあ、この辺の部屋なら無難ですよね」
「この辺?」
「ええ、何せ玄関に近ければ近いほど好いですから」
「あの、そうすると奥の方の部屋はどうなってるんですか?」
「奥に行けば行くほど家賃は安くなりますよ、ここは」
不動産屋さんにそう言われ首をかしげる。
確かに、共同の玄関だと奥の方は不便だろう。
しかし、ちょっと不便でお安くなるなら考え物だ。
「ちなみに、どのくらいお安くなるんですか?」
「そうですね、1280号室なんか月々一万二千円ってところですか」
「はいっ!?」
「ここ、奥に行けば行くほどお安くなりますから」
ニコニコ顔でそう言う不動産屋さん。
いやいや、そんなに奥深いのここって?
「ちなみに、一番奥って何号室まであるんですか?」
「聞きたいですか?」
ニヤリとする不動産屋さんに、背筋に冷たいものを感じて僕は言う。
「程々の部屋でやめときます」
僕はこうして三万円台の部屋に住む事にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます