デスゲーム物件の選び方
ナトリウム
自然豊かな庭園、ドラマチックな終焉。
人間には知覚できない世界、Διαφορετική διάσταση。
この世界にはανώτερη ύπαρξηたちが暮らしている。ανώτερη ύπαρξηとは、人間の言葉で言うところの神や悪魔、天使などに相当する者たち、所謂「上位存在」だ。
ανώτερη ύπαρξηたちの間では、人間を一つの空間に閉じ込めて戦わせるという遊びが流行している。παιχνίδι θανάτουと呼ばれるその遊びは、人間界にあるもので例えるならばムシ〇ング……いや、蟲毒に近いだろうか。
παιχνίδι θανάτουのルールはそんなに難しいものではない。プレイヤーたちは集めてきた人間——この人間はκομμάτιαと呼ばれる——を持ち寄り、それを用意した空間に入れる。自分が用意したκομμάτιαが最後まで生き残れば勝利だ。
παιχνίδι θανάτουのフィールド——χώροςと呼ばれている——として用いられるのは、人間界にあるような学校や無人島、古びた洋館など多岐にわたる。屋内でも、屋外でも、どちらでも良い。
χώρος選びはとても重要である。何故なら、選んだχώροςによってゲーム性がガラリと変わってしまうからだ。
例えば無人島を選んだ場合は、人間たちはいかにして食べ物等を確保して生き延びるかが重要になる。体力がない人間は、食料確保もまともにできないまま飢えて弱ってしまう。
古い洋館であれば、「突然見知らぬ空間に閉じ込められて出られない」という状況に耐えられる精神力がサバイバル能力よりも重要になる。
バッファローの群れが蔓延るサバンナの場合は、バッファローに遭遇しないことが絶対的な勝利条件となる。大多数の人間はバッファロー相手に太刀打ちできない。戦略よりも運ゲーが好きな者向けのχώροςだ。
このように、χώροςによって生き残りやすい人間の性質も大きく変わってくるため、用意するχώροςはしっかりと吟味する必要がある。
χώροςは自らの能力で自由自在に作り出せる者もいるが、そうでない者はχώροςを専門に扱うκτηματομεσίτηςで良い物件を探す。
大まかに希望する条件を伝えて候補を絞るという流れは、人間界で賃貸を探すのとそれほど変わらない。また、人間界の物件に賃貸や分譲があるように、χώροςにも一定期間のレンタルや買い切りが存在する。
そして、レンタルにせよ買い切りにせよ、決める前に実際に見てみるのが大事ということも人間界と同じだ。
ある者は、スリリングな展開のπαιχνίδι θανάτουを好むため、デストラップ満載のダンジョンを購入した。しかし、「中を見る楽しみはπαιχνίδι θανάτουをやる時まで取っておきたい」という理由でダンジョンの中を確認しないまま購入してしまい、説明されていたトラップの半分以上が実際には設置されていなかった。
χώροςの契約トラブルでは、「資料に載っていたものが実際にはなかった」というケースが多くの割合を占める。こういった悪質なケースを避けるためにも、一度はχώροςをその目で確かめる必要がある。
Φύσηは、自然豊かなχώροςを使ったπαιχνίδι θανάτουを好むανώτερη ύπαρξηだ。
Φύσηは景色の良さにこだわって、立派な庭園のある物件を探していた。とはいえ、単に景色がいいだけではもの足りない。παιχνίδι θανάτου用のギミックとして、何か面白いものがあれば最高だ。そう考えて訪れたκτηματομεσίτηςで、まさにΦύσηが求めていた物件を見つけた。
人間界では「桜に攫われそう」という表現があるだろう。あくまで人間界のそれは比喩表現だ。だがΔιαφορετική διάστασηでは違う。本当に生きとし生ける者を攫うデス桜が存在する。名前は厳ついが、攫う時には桜吹雪が舞い、ドラマチックな死を演出してくれるため高い人気を誇っている。
そんなデス桜が聳え立つ庭園を有する屋敷が売られているのをΦύσηは見つけた。早速内見の日程を打診するΦύση。
——ちなみに、基本的にχώροςは人間に合わせたサイズになっている。ανώτερη ύπαρξηはそのままでは入れないのだが、μικρό φωςと呼ばれる特殊な道具を使うことで中に入って見学することが可能になる。
いよいよ内見の日。Φύσηは事前情報を見た時点でかなりこの物件を気に入っており、実際に見て問題がなければすぐにでも購入しようと決めていた。
担当者と合流し、χώροςの中に入っていく。Φύσηは楽しみは最後に取っておくタイプなので、デス桜を見るのは最後にしようと決めていた。まずは屋敷の内部から見ていくことになった。人間界の日本と呼ばれているところで多く見られる建築様式だ。壁と思ったところが隠し扉になっていたり、何気なく踏んだ床から棘が飛び出してきたりとπαιχνίδι θανάτου向けのギミックがたくさん仕込まれている。
そしていよいよ本命のデス桜が聳え立つ庭園へ。
ちょうど開花の時期だったようで、見事に咲き誇っている。
だが、Φύσηは僅かに違和感を覚えていた。χώροςの環境は人間界の季節に合わせられていることが多い。今はだいたい三月上旬頃になっているはずだ。桜が咲くには少し早いのではないか。
それに加えてもう一つ、Φύσηにとっては決定的な違和感があった。それは花の付き方だ。多くの者は気づかないぐらい些細なことだが、植物を愛するΦύσηは見逃さなかった。「デス桜の花はこんなに枝に近かったか」とΦύσηが思い、慎重に近づこうとした瞬間——
目にも止まらぬ速さで木の枝が伸びてきた。Φύσηは間一髪で避けられたが、内見の担当者は触手のように動くその枝を口に突っ込まれ、何かを飲み込まされた。
聡明な読者は既にお気づきのことと思うが、桜とよく似た花を咲かせる植物としてアーモンドがある。それは人間界のものもΔιαφορετική διάστασηのものも同じだ。桜の花と枝の間には「花柄」という茎のようなものがある一方、アーモンドは花柄がないか非常に短いため、枝と花の距離が近い。
そしてアーモンドの中でも野生のものには毒が含まれている。これも人間界のアーモンドとデスアーモンドの両方に当てはまる。違いがあるとすれば、デスアーモンドは人間界のアーモンドよりも遥かに強い毒性をもつということだ。毒耐性のあるανώτερη ύπαρξηでない限り、死は免れない。
デスアーモンドを突っ込まれた内見の担当者は強烈な青酸ガスを撒き散らしながら事切れた。ここに長く留まるのは危険と判断し、Φύσηは足早に庭園を離れた。
確かにデスアーモンドもπαιχνίδι θανάτουのギミックとしては使えそうだ。自分のκομμάτιαが万が一デスアーモンドを食べさせられたとしても、胃酸と反応して青酸ガスが発生するため周りを巻き込むことができる。植物の知識がなければ対策は難しいだろう。上手く使えれば強い武器になる。
しかし、Φύσηが求める桜が散るような儚い終焉とは程遠い。Φύσηは内見で確認できて良かったと思いながら別の物件を探し始めた。
Φύσηの理想のχώρος探しは、まだ始まったばかりだ。
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