幽霊に恋した女

丸子稔

第1話 男目線

(おっ! 今回は珍しく女じゃないか。しかも学生じゃなくて、社会人のようだし)


 不動産屋の社員が連れて来たのは、一見ОL風の若い女だった。


 この部屋に早五年。今までここに内見に来るのは、男子学生を主とした独身の男ばかりで、このような若い女は初めてだ。


「他の部屋に比べて、ここはなぜこんなに格安なんですか?」


 女の問いかけに社員の男は言い淀んでいる。無理もない。

 この部屋は五年前に殺人事件があった場所だなんて、言えるわけがない。


 その被害者は、何を隠そうこの俺だ。

 俺はここに住み始めてわずか一ヶ月で強盗に遭い、犯人と格闘した末にナイフで刺され、あっけなく死んでしまった。

 それ以来俺は成仏することもできず、ずっとここから離れられないでいるのだ。


「この部屋は前方の建物のせいで、他と比べて日当たりが悪いんです」


 社員の男は苦し紛れにそう言っていた。



 結局、女はここに住むことになり、後日引っ越し業者がベッドや冷蔵庫等を次々と運んできた。


「なあ、なんかこの部屋、寒気がしないか?」


「別に。お前、風邪でも引いてるんじゃないのか?」


「いや、そういうのじゃなくて、なんかこう不気味な気配がするというか……」


「お前、まさかここに幽霊がいるとでも言うんじゃないだろうな? やめてくれよ。俺はそういうの苦手なんだよ」


 こういう霊感を持った奴はたまにいる。今までも何回かあった。

 その度に俺は、そいつに見えないように物陰に隠れたりしていた。


 やがて引っ越しが終わると、女は何やら作り始めた。

 見たところ、ざる蕎麦のようだ。

 女は慣れた手つきでノリを刻むと、出来上がった蕎麦にパラパラと振りかけた。


「いただきます」


 女は早速食べ始めたが、テーブルにはなぜか二人分用意されていた。


 このあと誰か来るのか、それとも女が二人前食べるのか、そんなことを思いながら眺めていると、女は一人分しか食べず、客が来ることもなかった。


 俺はこの奇妙な行動を怪訝に思いながら、その後も女の観察を続けた。 


 

 

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