住宅の内見 【KAC20242】

姑兎 -koto-

第1話 余計なお世話

ワクワクの住宅内見。

満面の笑みで出迎えてくれた不動産屋さん。

幸先良さげだったのに、部屋に入った途端、立ち込める暗雲。


何となく薄汚れて古びた室内に違和感のある真新しい壁紙って。

ちゃうねん!

どうせリフォームするんだし!

壁紙だって自分で選びたいし!

貼り直されてたら『勿体ない神』が降臨して、これに決定やん!

何なら、障子も襖も張り替えてない?

別にシンプルで悪くないよ。悪くないけれど、これもこれで決定やん!

なんでまた、こんな中途半端なことするかなぁ!!

リフォームするならするで、何も手を加えなくていいくらいキッチリ、しないならしないで何にもしないが良いに決まってるじゃん。

良かれと思っての事だろうけれど余計なお世話だよ。



内なる声とは裏腹に、笑顔で説明を聞く私。

それに、気をよくしたのか、笑顔満面で次なるアピールをする不動産屋さん。


なんで、そんなに得意げなん?

そりゃ、立地も広さも悪くない。

けど、エントランス暗くない?

エレベーターの真ん前が玄関ドアってびっくりなんですけど。

しかも、部屋の段差、ありえなくない?

「眺めがいいでしょう」って、売りは眺めだけかい?


内なる声が、段々、表情にも表れ始める。

それを察したのか、不動産屋さんが「お値段の方も、もう少し、お安くできますよ」と言い出す。


もしかして、どうしても売りたい物件?

いや、買うよ。

立地条件も広さもクリアしてるんだから、買うさ。

買うけどさ。

なんか……。

表情が値切ってるっぽくなってるの?

多少の「ちゃうやろ!」は、想定内、許容範囲だよ?

何か、有難いけれど、心外なんだが。



自分で自分の顔を見ることは出来ないけれど。

市場いちばでただ黙って考えているだけで、値下げして貰えることが多々ある。

私の考えてる時の顔って、不満そうに見えるんだろうか?


まあいい。

お安くなった分、リフォームにかけられるからな。

何だか、釈然としないけれど。


そして、私たちは、ささやかなお城を手に入れた。




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