魔界のタワーマンション

かざみ まゆみ

第1話

「なんでこんなところにタワマンなんか建てたんだ?」


 俺は自慢のヘビ頭ゴーゴンヘッドを振って顔を覆った。

 ここは魔界と人間界の境界と言ってもよい辺境の地。

 その景観はまさにタワーであった。

 外見も内装も一見古めかしく見えるが、古美ふるびの技術を用いて仕上げ加工された新築物件である。

 外壁には蔦も巻き付けられて、かなり怪しげな雰囲気を醸し出している。


「ワンフロアぶち抜きで賃貸もしくは分譲か……、お客さん付くのかなぁ?」


 内装の間仕切りは入居者が自由に出来るのが売りらしく、DIY用の簡易的壁生成魔法のグッズも併せて販売されていた。

 最大の問題は建物内に魔導エレベーターが一基も無い事であった。

 各階には上下階をつなぐ階段が有るのみで、来客があった際はすべからく一階から登って行かなければならなかった。


「こんな不便なタワマン誰が住むんだ?」


 しかし内見が始まると、これが意外なほど入居者が決まっていく。


 低層階には多種多様、カラフルなスライム族が居を構えだした。

 魔法使いやゴーストたちは魔法を使い壁をすり抜けて各フロアへと入っていった。

 魔界の騎士たちはご丁寧に一階から列をなして目的のフロアまで登って行く。

 最上階の3フロアはオーナーが居を構えるそうだ。まぁ、それはそうだろう。よくある事だ。

 上層の方は翼のあるドラゴンたちが、我先にと入居して行った。


 入居者の募集をかけてから僅かな時間でエレベーターの無いタワマンは満室となった。

 しかし、未だに内見との申込みが来る。

 俺はそれらを丁重に断りながら、ふと考えた。


 ――何故この建物はこんなに人気なのだろうか? オーナーの下、各階にモンスターがひしめき合うさまは、まさに魔物の巣窟といって差し支えないだろう。


 そういえば最近、人間の冒険者たちの来訪も増えていると聞いた。どうも、オーナー様がさらってきた人間を探しているとのことだった。

 人間たちの間ではオーナー様の名前を使ってこう呼ばれているらしい。


「ド〇〇ーガの塔」と。

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