引越しの話
金谷さとる
一緒がいい
がらんとした陽当たりのいい部屋、狭くて壁が薄い駅近のアパート。みっつめに案内されたのは雑居ビルの四階、バストイレは別。ガスコンロに流し台。備え付けの食器棚。クローゼッ有りベランダ無し。窓の十五センチ先には隣の雑居ビルの壁で窓というより通気口のようだなと思ってしまう。
「ちょっと暗いが寝るのと荷物を置くには問題ないと思うぞ」と、紹介されてきた。
「新居になる住宅の内見!? 同棲新居ならネオンも行くべきだったと思うよ! タイ君」
その事をネオンに告げるととんでもないことを言い出した。
「同棲しません」
「二人っきりでいちゃいちゃルームならペアカップとか置きたいねぇ」
「いちゃいちゃしません。ネオンが学生の間はキヨキおつきあいだからね?」
「お兄ちゃんがコワイ?」
「おれの方が年上だからね。お揃いの食器はかまわないけれど、いちゃいちゃは、その、おれの自制心もあるし、ネオンをちゃんと大事にしたいんだよ」
じっと見上げられる眼差しにドキドキする。
あとお兄さんは別にこわくない。
「自制心、揺さぶりたいよ。タイ君」
ぁああああ!!
「わざとらしく胸元に手をやって唇を尖らせないの! かわいいから」
ぶーっとわざとらしく音を出してからけろりといつもの表情に戻っておれの腕を捕まえる。
「かわいい? えへへ。タイ君にかわいいって言われるの好き。ねー、お部屋は動物飼えるの?」
くっそかわいい。
「聞いてないけど、責任持てるかわからないから飼わないよ?」
ネオンはとても動物が好きだから。
「そうね。タイ君はネオンでていっぱいだよね。それはそれでいっか」
「それに」
「それに?」
「ネオンは受験だろ。頑張るネオンの息抜きには協力するけど邪魔はしたくないからね」
ネオンには将来なりたい目標がある。特にこれといった目標がないおれには羨ましいし、応援したい。
「だからね」
「だから?」
心を鬼にしろ。ほだされるな。
「ネオンを新居に案内するのは受験終わってからかな」
引越しの話 金谷さとる @Tomcat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます