呪いの部屋
睡田止企
呪いの部屋
友人の萩本からの依頼で彼の住む部屋の隣の部屋を内見することになった。
電話口で彼はその部屋を呪われているのではないかと言っていた。
誰も住んでいないはずなのに鳴き声や呻き声が聞こえるらしい。
その部屋がどんな様子かを内見して確認してほしいとのことだった。
仕事が立て込み会社に泊まり込みの日々が続き、依頼から二ヶ月も経ってしまったが、ようやく今日内見することになった。
「これ、なんですか?」
僕は内見を担当する不動産会社の社員である吉本さんに尋ねた。
部屋中には壁全面にお札が貼り尽くされていた。
「これは、この場にいる幽霊をおさえているんですよ」
「……幽霊いるんですか?」
「そうなんですよ。そのせいで全然借り手が見つからなくて」
僕はスマホでこの部屋の不動産情報を確認する。
築十二年。1K。バストイレ別。家賃4万4千円。
別段事故物件についての記載はない。
「事故物件ってこういうのに記載が必要なんじゃないんですか?」
僕はスマホの画面を吉本さんに見せる。
「いえ、事故物件ではないんですよ」
「え?」
「何も起きてはいないんですけどね。ただ幽霊がいるんですよ」
「……そんなことあります?」
「あるらしいですよ。有名な占い師の先生に見てもらったんですが、幽霊が集まりやすいらしくて。このお札もその先生にいただいたものなんですよ」
「占い師ですか? 霊媒師ではなく?」
「まあ、そのあたりの胡散臭いこと全般を生業としている方です」
吉本さんは壁に貼られたお札を撫でながら言った。
「その占い師信用してます?」
「もちろんですよ」
「でも、先ほど胡散臭いと」
「職業としては胡散臭いですが、力は本物ですよ。実際、このお札を貼ってから幽霊の話は聞かなくなりましたから」
「……隣から言われたりしていませんか? 鳴き声や呻き声が聞こえるとか」
萩本は不動産会社へは幽霊の話はしなかったのだろうか。
もしかしたら僕にしか話していないのかもしれない。友人も少なく、おそらく、僕しかいないのではないだろうか。萩本は引っ込み思案で無口な男だった。
「なんで幽霊の話を聞かなくなったか分かりました……。隣は今空き部屋だからですね……」
「……え?」
「こんな簡単なトリックに騙されてしまうなんて……」
「あの」
「はい?」
「隣、空き部屋なんですか?」
「はい。……あ、もし事故物件でも構わないのでしたら、隣の部屋も内見のご案内いたしましょうか?」
「……事故物件?」
「はい。隣は事故物件なんですよ。住んでた方が殺されまして。でも、占い師の先生が言うには部屋に殺された方の幽霊はいるらしいのですが、無口な方で声に悩まされることはないそうですよ」
呪いの部屋 睡田止企 @suida
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