爆弾

北路 さうす

爆弾

木下は三分以内にやらなければならないことがあった。自分の勤めるブラック企業、株式会社ガチグロの重役会議が行われている会議室仕掛けた爆弾を起動しなければならないのだ。

しかし仕掛けた爆弾の起動装置であるガラケーに電話をかけたもののつながらず、爆弾が起動しなかったのだ。原因は判明している。会議室が電波遮断式なのだ。


この爆弾は木下が慕っている小平先輩の家で見つけた設計図に基づいて作ったものだ。株式会社ガチグロはブラック企業ゆえ、よく社員がトぶ。小平先輩もしばらく調子が悪そうにしており、ついに来なくなってしまったのだ。死んだとのうわさも流れてきた。しかし見舞いに行く余裕もなく、小平先輩はクビという形で退社になった。会社に残っていた荷物が処分される前に、木下はそれらを小平先輩の家へもっていった。

「小平先輩、木下です。荷物持ってきちゃいました」

事前に連絡を入れていたものの、返信はなかった。仕方なしにドアノブをひねってみると、ドアが開いた。恐る恐る中に入ると、ほこりっぽいあれた室内の目立つところに、冊子が置いてあるのが見えた。小平先輩の名前を呼ぶが、やはり返事はない。荷物を置き、冊子を手に取ると、そこには小平先輩の字で『復讐してくれ』と書いてあった。

小平先輩の番号に電話をかけてみたが、『現在使われておりません』の自動音声がむなしく響くだけだった。木下は、小平先輩が死んでしまったと確信した。


木下は、寝る間も惜しんで爆弾作成に明け暮れた。そしてそれは完成し、月に一度の重役会議に合わせて設置することにした。小平先輩の几帳面な字で書かれていた懸念事項に、重役会議が行われる会議室の頑丈さがかかれていた。会議内容の流出を恐れ、電波を遮断しているともっぱらのうわさだったのだ。それが真実だと判明し、木下は考えを巡らせる。重役会議なんて月に一度しかないチャンスを逃すわけにはいかず見切り発車してしまった。誰かがドアを開け、電波が一時的にでも通るようにしなければ。寝不足で回らない頭の中を小平先輩の笑顔がよぎる。いつかの飲み会で、「木下はやれる男だ。ここぞと時に自分を顧みず行動することができる、やれる男だ」そう褒められたことを思い出す。

「やればできる。先輩の仇討だ、何を恐れる必要があるんだ」

木下はフロアを飛び出し、階段を駆け上がる。会議室に到着し、一呼吸置いた後、ドアを開いた。

「何だね君は!会議中だぞ!」

風圧を感じる怒号が飛ぶ。部長が白けた顔でこちらを見てため息をつく。木下は震える指でガラケーの番号を押す。

プルルルと1コールなったのち、会議室は木下ごと爆発した。


次の日の新聞は株式会社ガチグロの爆発事件で持ちきりだった。虐げられた社員が重役もろとも吹っ飛び、一族経営であるガチグロは文字通り瓦解することとなるようだという記事をみて、小平は実家で一人笑っていた。

「木下、お前ならやると思ってたよ。ブラック企業社員の素質あるもん」

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