第七話 蠢く者
「……なんかバタバタしてますね」
「どうせまた潜り込もうとした奴がいたんだろ」
「懲りないですねぇ……」
アルト君が入学してもうすぐ半年になろうかという今もゴルドールのちょっかいは続いていた。ほんっとーにしつこいな。ウォルスさんもウンザリ顔だ。
「闘技大会が近いせいだろうな。今年は陛下も観覧されるらしいから、そのせいもあるんじゃねぇか?」
「へぇ~、そうなんだ」
「……知らねぇのかよ」
闘技大会というのは魔法科と騎士科それぞれで一番強い生徒を決めるためのイベントで、一年から四年の実技上位者各四名がトーナメント形式で戦う。騎士科、魔法科ともに初日に準々決勝までやって、二日目に準決勝と決勝を行う。この辺は原作のアルテリア王立学園の闘技大会とほとんど同じだな。
四年が優勝することが多いみたいだけど、ここ数年は同じ子が優勝しているらしい。今年はアルト君も優勝候補の一人に挙がっているらんだって。チラッと騎士科の授業を覗いた感じだとアルト君と現在三連覇中の槍使いの女の子の二強かな、という印象。もちろんまだ見てない有望株がいる可能性もあるけどね。
ちなみに今の国王は教育に力を入れていることもあって、わざわざ観覧しに来るらしい。そりゃ、あちこちざわつくわな。
「そっちは済んだか?」
「済みました」
「よし、それじゃあ次行くか」
「はーい」
このところ送り込まれるのはろくに情報を持っていない雑魚ばっかりなんだって。共通してるのはゴルドールに指示されたってことだけ。なんでそんなのばっかりを送り込んでくるんだろうね?しかも今みたいに昼間っから来ることもあるし。意図がさっぱり分からない。手薄なところやこっちの戦力を探ってるんだろうか。それにしては非効率だよなぁ。もしくは学園に意識を向けさせるためとか?
たしか原作でも似たような話があったよな。よそに意識を向けさせておいて、本命をドカン!みたいな。あっちの本命は闘技大会だったけどこっちではどうなんだろうな。当日は国王がいる分、より厳重に警備されるだろうから他を狙ってくるかもしれない。まぁ、その辺のことは辺境伯たちにお任せ。俺には分からん。
「げっ、ネビル様が放課後に訓練場を使われるそうだぞ」
「うわぁ……」
「またお前んとこのぼっちゃんの指導じゃないか?」
「でしょうね……」
あの人、しょっちゅう訓練所を壊すんだよな。いつぞやなんて壁をぶち破ってたし。なんで指導してて壁が壊れるのさ。雑にもほどがあるだろ。そんなんだから衛兵やらされるんだぞ。
そんなネビル氏はアルト君のことをいたく気に入っているようで、時間を見つけては指導してくれている。彼はパワーでゴリ押しするタイプで、速さで翻弄するタイプのフェンフィール氏とは真逆のスタイル。そんなネビル氏の指導でアルト君の戦いの引き出しも増えたようで、着実に実力を伸ばしているらしい。強くなるのに貪欲なのはいいけど、あの雑さは見習っちゃダメだからね?
お役目のひとつであるアルト君の近況報告にやってきた。いつも忙しそうな辺境伯もこの時間はリラックスしている。
「――とまぁ、若様の学園生活はそんな感じですね」
「なるほど。だからウェインが張り切っていたのか」
「そうなんですか?」
「無理に力勝負に持ち込もうとするとボヤいていたよ」
「あぁ……」
ネビル氏の影響か、最近のアルト君は力勝負を好むようになったらしい。ただ、アルト君の属性は風だから、フェンフィール氏みたいな速さで翻弄するスタイルが向いてるんだよね。もちろん相手によっては力押しが必要な場面もあるし、戦い方の幅を広げるのもいいんだけど、自分の一番の武器を捨てちゃダメだよ。ってことで、フェンフィール氏による矯正指導が行われているらしい。頑張れ、アルト君。
ん?俺?俺は近接戦闘に関してはゴリッゴリのパワーファイターだね。【魔装】で防御を固めて【身体強化】ガン積みで思いっきり殴るだけ。技術もクソもない。武器適性が低い俺にはそれしかできないからね。そもそも近接戦闘自体したくないし。
理想は相手の射程外から一方的に攻撃し続けること。やっぱこれが一番よ。勝てばよかろうなのだ。まぁ、いつもそういう戦い方ができるとは限らないけどね。
「あぁ、そうだ。ゴルドールのことでいくつか分かったことがある」
「おぉ」
「ゴルドールという名の人物は何人かいたがすべて別人だった。ただ、アルミラ公国の商業ギルドにゴルドールによく似た男がいるそうだ」
「公国に……?」
「あぁ、エドウィン・グラディオルという男だ」
あぁ、そいつだそいつ。原作で出てきた商業ギルドの幹部。やっぱあいつだったか。てか公国にいたんだな。てことは原作で公国が滅んだ件にも関わってそうだな。ハーテリアが公国を併合してミルティアに何の得があるのかは知らないけど。……あのまま公国に行ったらそれはそれでめんどくさかったかもなぁ。
「若いがなかなかのやり手だそうでね。幹部入りも近いと言われていたそうだが、教国との連携を推していたこともあって、あの騒乱以降ギルドでの立場が厳しくなっているそうだ」
「商業ギルドも相当非難されてましたからね」
「教国と結託してあれだけ後ろ暗いことをやっていてはね。だが、連中もさすがと言うべきか、各国がバタついているうちに上層部を一新して、ダメージを最低限に抑え込んだ」
あの時の商業ギルドはめちゃめちゃ動きが速かったからな。いくつかの利権は剥ぎ取れたものの、トップの刷新と被害者や各国のお偉方への金品のばら撒きでかなり早い段階で手打ちにしちゃったからね。
そのせいでこの国では多くの人が知る商業ギルドの悪行も、他の国では民衆の耳に入る前に事態が鎮静化してしまい、“商業ギルドがなんかやらかしたらしいよ”程度の噂話にとどまってしまった。前世と違って情報の伝達に時間がかかっちゃうんだよな。まぁ、お互い様ではあるんだけど。
そういうわけで商業ギルドは多少の弱体化はしたけど、そのダメージは限定的なものになってしまった。
「問題はグラディオルが公国の中枢にまで食い込んでることだ」
「そっちに働きかけると?」
「現時点ではそういう可能性もあるというレベルの話だけどね。常識的に考えれば公国が教国と組むとは考えにくい。だが、公国とミルティアが組めばこの国が難しい状況に陥るのも事実だ」
「……めんどくさいですね」
「まったくだ」
二年前の一件で各国から非難を浴びている教国と組むなんてリスクが大きすぎるからね。とはいえ公国の上の方がその気になったらどうなるか分からない。
単独の国力では公国や教国よりもハーテリアの方が数段上だけど、東西から同時に攻められたら相当厳しい戦いになるだろう。国内もまだ完全に落ち着いたとはいえないから、国内の不穏分子に備える必要もあるしな。
まったく……。戦争なんかに巻き込まれるのはまっぴらごめんなのに。俺は俺とマイン君とセイラ、そして身近な人たちが穏やかに過ごせればそれでいいの。
「嫌がらせが必要ならいつでも言ってくださいね?」
「……マインの嫌がらせは嫌がらせではすまないからなぁ」
「いやいや、そんなことはないですよ?……たぶん」
「その“たぶん”が怖いんだけどね。……今はまだ大丈夫だ。だが、状況次第ではお願いするかもしれない」
「了解です」
さすがにいつぞやみたいに派手にやるつもりはないですよ?戦争にならないようにちょっと出鼻を挫くだけだって。たぶんきっとめいびー。
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