俺は普通に生きたい

こんぽ

第一章 アルテリア王国編

第一話 幽閉スタート

「まともに剣も振れぬとは…… なんという無能かっ!」

「え……?は……?」


 尻もちをついた格好の俺に罵声を浴びせてくるのは長身で赤髪チョビ髭のイケメン。見た感じ二十代半ばくらいか?見るからに高級そうな服を身に纏っているが、チョビ髭が絶望的に似合っていない。誰か教えてやれ。

 チョビ髭の脇にはニヤニヤしながらこちらを見下ろすガキ。こいつも顔が整ってんな。まぁ、せっかくの顔がその歪んだ口元から滲み出してる性根の悪さで台無しになってるんだが。もったいない。こっちのガキはお高そうな服の上に簡素な防具を身に着けて右手には木剣を握っている。ごっこ遊び?

 混乱のせいか、しょうもない感想ばかりが頭に浮かんでは消えていく。


 ちなみに俺もガキと似たような防具は身に着けているものの、服は明らかに安物と分かるもの。そして子どものような細く短い手足。……は?いや、マジでなんだこれ。意味が分からん。


「おいおい、なんだ今のへっぴり腰は」

「やはり無能は無能か」


 混乱する俺の耳に馬鹿にしたような声が届く。そちらに顔を向けると、大きな屋敷の前に並ぶ騎士風の男達や使用人らしき人たちの姿が見えた。いずれの顔からも呆れや嘲りといったネガティブな感情が窺える。なんだこいつら、感じわるっ。死ねばいいのに。


「おい無能、聞いているのかっ!」


 チョビ髭の声が飛ぶ。俺が混乱してる間にも何事か熱弁を振るっていたらしい。聞いてるわけねーだろ。こっちはそれどころじゃねーんだよ。怖いので口には出さないけど、ムカつくので心の中で言い返しておく。あとそのチョビ髭似合ってねぇぞ。


「ちちうえ、こんなムノウにいくらいってもムダです。それよりも、やくそくどおりオレにケンをおしえてください」

「ふむ、たしかにカインの言う通りだな」


 おっ、ナイスだガキンチョ。今はとにかく落ち着いて状況を整理したいからな。多少の暴言は許してやろう。


「いいか無能、もはや貴様には何の期待もせん。今すぐにでも叩き出してやりたいところだが、成人前に放り出すと外聞が悪い。十二の歳までは面倒を見てやるが、その先はもはや親でも子でもない赤の他人。どこへなりと行くがよい。それが嫌なら剣をもって貴様の価値を示すことだな!」

「はぁ……」


 チョビ髭は使用人に何事か伝えて、ガキとともに屋敷のほうに去っていった。ムカつくやつだな。それにしても爽やか系イケメン(チョビ髭付き)のくせにやたらと尊大な喋り方をするから違和感がすごいんだよな。似合ってないからやめればいいのに。チョビ髭も。

 なんてことを考えていると……


「侯爵様もお優しいことだ」

「まったくだ。ああまで無能だと、本当に侯爵様の胤かどうか」

「いくら顔が良くても所詮は平民。そんな女に手を付けるとは――」

「おいっ!」

「っと、危ない危ない」


 騎士たちのそんな言葉が妙に胸に突き刺さる。悲しいような悔しいような不思議な感情。もう何が何だかさっぱり分からん。


「マイン様、こちらへ」

「あ、はい」


 そうこうする間に、騎士や使用人たちは立ち去り、俺と中年のメイドだけになっていた。……このおばさん、なんとなーく見覚えがあるような気がするな。


「……っと」


 立ち上がろうとしてふらつく。手足の長さや身体の重心が変わったからか?思うように動けない。


「マイン様」

「あー、すみません」


 ふらついたのに気付かなかったのか、そもそも俺に関心がないのか。ないんだろうな。再度促す中年メイドについて歩くこと数分。そこには粗末な土壁の家があった。チョビ髭たちが向かった屋敷とは大違いだ。いくら屋敷の裏手とはいえ、これはさすがにショボ過ぎない?


「マイン様には、成人を迎えるまで、こちらの離れでお暮らしいただくようにとのことです」

「はぁ……」


 えぇ……、俺の家なんか。隙間風とかやばそうだな。

 中年メイドに促されるままに離れに入った直後、背後から鍵をかける音が聞こえた。


「えっ!?ちょっ」

「マイン様が成人するまで離れから出すなと旦那様から仰せつかっております」

「はあっ!?何で!?」

「食事は担当の者が毎朝届けに参りますので。それでは失礼致します」

「いやちょっと待ってよ!」


 中年メイドはそのまま振り返ることなく去って行った。


「いや、マジでなんだよこれ……」

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