☆KAC20241☆ Barで待っている
彩霞
前編
俺には三分以内にやらなければならないことがあった。
カウンター席で、俺の隣に座るフェイさんが出したお題に対し、彼女が満足する回答をする――ということ。それをしなければ、デートしてもらえないからだ。
彼女に初めて会ったのは、五か月前。
社交辞令で、
すらりとした体型に合うドレスを
それから、毎週一度はBar「
仕事とプライベートのことをしっかりと切り離しているのだろう。
しかし、だからこそ俺はフェイさんの当たり前の日常に、自分が入り込めたらいいなと思っていたのである。
フェイさんのことをもっと知りたい!
そう思って、デートに誘い始めて二か月。中々良い返事がもらえない。それは彼女が意地悪をしているわけではなくて、俺が彼女の条件をクリアできていないからでもある。
初めて彼女にデートの誘いを持ちかけたとき、「いいわよ」という軽い返事のあとに条件を出されたのだ。
「ただし、私が出す問いに、三分以内で私が納得する回答を得られたらね」
フェイさんはそう言って、今日も俺に問題を出す。
「今日の問いは『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れについてどう思うか』よ」
俺は一瞬、何のことを言われれているのか分からずフリーズした。
「……え、何ですか?」
「『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れについてどう思うか』と言ったのよ」
「……なんだか、また分からないものが出てきましたね」
フェイさんが出す問題はとても難しい。
前回は「自分の部屋に己がいないとき、部屋は存在するか否か」という問いだった。俺は全く分からず、降参した。三分ではとても難しすぎる。
それでも、デートの誘いを続けていれば、きっとネタが尽きるだろうと思って来るたびにお願いしているのだが、一向に彼女のネタは尽きず、難しくなっていく一方だ。
「じゃあ、降参する?」
「いえ、考えます……!」
「そう。じゃあ、頑張って」
フェイさんはにこっと優しい笑みを浮かべ、手元にあるスマホのタイマーを「三分」に設定すると、スタートボタンを押した。
「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れについてどう思うか……」
俺は口の中で、何度も問題を繰り返す。それをどう思うかと聞かれても、正直何も思わない。バッファローの群れがあったら、その
「あと、一分三十秒」
フェイさんが、半分の時間が経過したことを知らせる。
俺はその瞬間、頭が現実に引き戻されて、さらに焦り始める。
もしかすると俺を動揺させるための、フェイさんの
「はい、終了」
「うわー……、結局何も答えられなかった……」
俺は頭を
「頭の運動にはなったんじゃないかしら?」
「フェイさんの問題に答えようとするときは、いっつも頭の使わない部分を使っているような感覚ですよ」
「じゃあ、休憩がてらに一杯いかが?」
「商売上手すぎます」
俺がフェイさんのほうを見ると、彼女は上品に笑った。
「うふふ」
この笑顔を見られれば、まあいいやと思ったときである。
「その問題、俺が答えてもいいかな?」
と、俺たちに声を掛けてきた人物がいた。
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