第42話 ギルドマスター

 ネイビス達はBランクダンジョン『アンデッドの墓場』を難なくクリアした。光属性の魔法『プチホーリー』がアンデッドに対してとても有効で、ビエラが大活躍だった。三人は今帰還ゲートの前に立っている。


「帰還したらどうなってるかな」

「さっさとこの気味の悪い場所から出ましょうよ」

「うんうん!」


 Bランクダンジョン『アンデッドの墓場』はEランクダンジョン『カエル沼』に次ぐ不人気だ。というのも、アンデッドの放つ腐臭や墓地という不気味さが相まってとても居心地が悪いのだ。ダンジョン都市イカルのダンジョン人気ランキングは以下のようになっている。


 1位Fランクダンジョン『ウサギパラダイス』

 理由:金になる。ウサちゃんかわいい。エリアの開放感がいい。


 2位Aランクダンジョン『ドラゴンの巣』

 理由:憧れだから。ドラゴンカッコいい(想像)。


 3位Cランクダンジョン『蟻塚』

 理由:アリさん大好き。


 4位Dランクダンジョン『ゴブリンの巣窟』

 理由:ゴブリンはよく見ると可愛いかも?人型だから戦いにくい。


 5位Bランクダンジョン『アンデッドの墓場』

 理由:臭い。暗い。人型だから戦いにくい。剣が腐る。


 6位Eランクダンジョン『カエル沼』

 理由:ランクに合わない厄介さ。異常状態厳しすぎぃ! ゲコゲコ喧しい。


 ランキング外


 Sランクダンジョン『ベヒーモスの谷』

 理由:未知だから。




「じゃあ帰るか」


 三人は帰還ゲートを潜る。するとそこにはネイビスの想像通り大勢の人がいた。


「おい! アレじゃね?」

「レベル68って本当ですかー?」


 三人に声がかかってくるが、ネイビス達は無視して先を行く。そんな三人の前に一人のフロストコングのようながたいの大男が立ち憚った。


「おう兄ちゃん。ちと止まりな」

「誰ですかあなたは?」


 ネイビスが尋ねると大男は「ガハハ」と笑って自身を指差して答える。


「冒険者ギルドダンジョン都市イカル支部ギルドマスターったぁ俺の事だ! ガハハ! まさか知らねぇ奴がいるとは思わなかったよ!」


 無駄に声のでかい大男に三人は少し距離を取る。すると大男は一歩前に出て三人に近づいた。


「俺の名前はカーネルド。剣聖レベル61だ!」

「俺はネイビスです。一応魔法使いレベル68です」

「私はイリス。剣士レベル55よ」

「私はビエラです! 僧侶レベル55です!」


 三人の自己紹介を聞くとカーネルドは「ガハハ」と笑って、三人を見回した。


「俺には分かるぞ。お前達かなり強えだろ。レベル68ったぁ本当だったか! ガハハ! 早くルートの奴に教えてやりてぇな!」

「勇者ルートですか?」


 ネイビスが尋ねるとカーネルドは大きく頷いて語り始める。


「ああ。まぁ、アイツの事だ。どこ吹く風って感じだろうがなぁ。ガハハ! いやー、ついに現れたか! 人類最高到達レベルを超える者が!」


 その時話し込む四人の前に二人の野次馬が現れた。


「レベル68って聞いたんだが、本当か?」

「拙者も気になるでござる!」


 その二人を見て、カーネルドが声を荒げて言う。


「オイ。テメェら! 今俺達が話してんだろ? しゃしゃり出て来るんじゃねぇ」

「ひいぃ! すまなかったでござる!」

「それはすまなかった」


 カーネルドの剣幕に気圧されて二人の男は頭を下げて謝った。


「分かったならいいって事よ! ガッハハ! それよりもこいつがレベル68ってのは本当だ」

「本当でござったか!?」

「ああ。俺くらいになるとレベルを聞かなくてもそいつの実力は分かるもんだ。こいつらは間違いなく皆んな俺よりも強え。それより、これからこいつらと話さなきゃなないことがあるから道開けてくれねぇか?」


 ネイビスは「先に道を塞いだのはどこのどいつだよ!」とツッコミたい気持ちを静める。


「そうでござったか! これは失礼したでござる。どうぞ!」


 男二人は道を開けた。そのままネイビス達はカーネルドを先頭にして冒険者ギルドダンジョン都市イカル支部中央ギルドへと向かった。

 野次馬も興味津々といった感じではあったが、フロストコング並みの迫力のあるカーネルドに圧倒されて次から次へと道を開けていった。


「あのー。具体的にどのような話をするんですか?」


 歩きながらネイビスはカーネルドに尋ねた。


「なに。先ずはどうやってそこまでレベルを上げたのかってことだな。それとステータスを写さしてもらう。今後の冒険者育成のためにもな!」

「ステータスですか……」

「なんだ? 嫌なのか? 嫌なら別に構わないが」


 ステータスを見せるということは転職という概念を教えることとほぼ同義だ。ネイビス達三人は二つの職業以上のスキルを既に覚えている。どうやって覚えたのか尋ねられたらどうしようもない。それにステータスも問題だ。一度レベル99を経ている三人のステータス値は尋常じゃない。そこを突かれたらネイビスはこう答えるしかない。「転職しました」と。

 だが、ネイビスはそろそろ頃合いなのではないか? とも考えていた。前世の記憶を取り戻してから三ヶ月と少し。まだ伸び代はあるが、ネイビス達は十分最強と呼ばれるに相応しくなっている。ネイビスは逆にこの機会を上手く利用してやろうと考え始めた。


「見せる分には良いんですが、一つ協力して頂けますか?」

「お、何だ。言ってみろ」

「え! いいの? ネイビス?」

「大丈夫なのかな?」


 ネイビスがステータスを見せることを了承すると話を聞いていたイリスとビエラがネイビスに確認する。


「なあに。なるようになるさ。カーネルドさん。あなたはそれなりに発言力と権力を持っていますよね?」

「まぁ、それなりにはな。国王の野郎やランダム教には劣るが」


 そのカーネルドの言葉にネイビスは少し引っかかる。


「もしかして国王と親密なんですか?」


 ネイビスがそう尋ねるとカーネルドは「ガッハハ!」と笑って答えた。


「あいつとは勇者学院時代の同期でなあ。一時期はレベル67の記録を出した勇者カインと現国王ルドルフ・オリエンスと三人で同じパーティーを組んでたこともあった」


 これを聞いてネイビスは一つのシナリオを考え出した。


「そうですか! なら良い話が出来そうですね!」

「お? 何だ急に。それよかもう直ぐで着くぞ」


 カーネルドを先頭にしてネイビス達はとても大きな中央ギルドの建物の中へと入っていくのだった。

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